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BBC News

2025年11月19日

2年間で29人という最も多くのパレスチナ人収監者が死亡したのは、イスラエル南部のスデ・テイマン軍事基地にある刑務所だったと、イスラエルの人権団体は報告した。画像はパレスチナ・ガザ地区に近いネゲブ砂漠にある同刑務所の外観

イスラエルの人権団体は17日、イスラエルの刑務所で収監中に死亡したパレスチナ人が、2年間で少なくとも94人に上ったとする報告書を公表した。

「人権のための医師団・イスラエル(PHRI)」は最新の報告書で、イスラエルの刑務所には「体系的な殺害と隠蔽(いんぺい)」の慣行があると指摘している。PHRIはイスラエルの人権団体として高く評価されている。

報告書は、イスラム組織ハマスがイスラエル南部を奇襲し、約1200人を殺害、251人を人質に取った2023年10月7日から、2025年8月31日までの期間を対象としている。ハマスの攻撃直後にイスラエルはパレスチナ・ガザ地区で報復攻撃を開始した。

報告書によると、2023年10月7日以前の10年間では、イスラエルで収監中に死亡したパレスチナ人は30人未満だった。

国内の刑務所を管理するイスラエル刑務所サービス(IPS)はBBCに対し、「法律に基づき、公的な監督機関の監視下で(刑務所を)運営している」と述べた。

また、外部機関が提示する数字や主張についてはコメントしないとした。

「すべての収監者は法的手続きに従って拘束され、医療へのアクセス、衛生、適切な生活環境などの権利は専門的に訓練された職員によって守られている」と、IPSは付け加えた。

2023年10月7日以降、パレスチナのガザ地区やヨルダン川西岸地区では数千人のパレスチナ人が拘束されている。ただし、その多くは起訴されていない。

PHRIは、イスラエルが「安全保障関連囚人」に分類したパレスチナ人に対して行われた、深刻な懸念を抱かせる体系的な人権侵害の実態が明らかになったとしている。「安全保障関連囚人」とは、「有罪となり刑を宣告された者、または犯罪を犯した疑いで収監されている者で、その犯罪行為が性質上あるいは状況により安全保障関連犯罪と定義された、あるいはその動機が国家主義的である者」のこと。

こうした人権侵害は、ガザで戦争が始まって以来、イスラエル当局が実施してきた公式政策の一環だと、PHRIは説明している。

イスラエル当局は現在、拘束中のパレスチナ人に関する情報を赤十字に提供することを停止し、収容施設にアクセスすることも禁止している。

PHRIは報告書について、公式記録や法医学報告書、ほかの人権団体からの情報、特定人物の所在確認の取り組み、被拘束者やその家族、弁護士からの証言を相互参照したデータに基づいて作成されたものだと説明した。

報告書の著者によると、2年間で死亡した94人のうち52人はイスラエル軍の刑務所で、42人はIPSが運営する民間刑務所で死亡した。

PHRIは、死因は身体的暴力か医療怠慢のいずれか、あるいはその両方だと指摘している。

報告書は、イスラエルの極右政治家で、ベンヤミン・ネタニヤフ首相率いる連立政権の主要メンバーであるイタマル・ベン・グヴィル国家安全保障相の政策に言及している。

ベン・グヴィル氏の管理下でパレスチナ人を収容するイスラエルの施設が、「事実上、拷問と虐待の場へと変貌した」のだと、PHRIは指摘。

さらに、日常的な身体的暴力がまん延し、人権が奪われ、体系的な拷問が行われたことが、数十人のパレスチナ人の死を招いたと付け加えた。

2年間で最多29人のパレスチナ人収監者が死亡したのは、ガザに近いイスラエル南部のスデ・テイマン軍事基地にある刑務所だった。

2024年7月にはスデ・テイマンで、パレスチナ人収監者1人が殴打され、鋭利な物で肛門を刺されたとされる事件が起きた。その後、イスラエルの予備役5人が、加重虐待と重大な身体傷害を負わせた罪で起訴された。

流出した映像には、予備役が被拘束者を連れ出し、暴動鎮圧用シールドで囲んで暴行を加えたとされる場面が映っていた。5人の予備役は容疑を否認しており、名前は公表されていない。

この暴行疑惑はイスラエル国民を分断している。一部の右派政治家は、軍警察の捜査を批判し、刑務所の外では「レイプする権利」を主張する抗議活動まで起きた。

PHRIの報告書は、イスラエル当局が拘禁中のパレスチナ人の死亡や虐待疑惑に関する調査を「隠蔽」し、抑圧しようとしていると非難している。

多くのケースで、被拘束者の家族には死亡の事実が知らされず、検死へのアクセスも拒否されたという。

報告書はまた、イスラエルの刑務所職員や兵士が訴追されていないとも指摘している。

記録より多い可能性も

PHRIは「強制失踪」と呼ばれる政策実態も調査した。これまでに拘束された数千人のパレスチナ人について、家族には拘束されたことや収監先について通知されていないという。

こうした「国際法に対する重大な違反」により、イスラエルの囚人政策の全容や、拘束された多くのパレスチナ人の行方を把握するのが不可能ではないにせよ、極めて困難になっていると、PHRIは指摘している。

同団体は、実際の死亡者数が、記録されている数よりも多い可能性があるとみている。

IPSは、「報告書に記された主張はイスラエル刑務所サービスの行動や手続きを反映しておらず、提示されたような事例は認識していない」とした。

さらに、「IPSの拘禁下での死亡事例はすべて、確立された手続きに従って調査され、必要に応じて管轄当局に付託される」とし、こう付け加えた。

「プライバシー、安全保障、法的制約の観点から、IPSは収監者に関する個人情報や統計の詳細を提供せず、個別の事例についてもコメントしない」

イスラエル国防軍(IDF)は、「イスラエル法および国際法に従って活動」しており、「テロ活動への関与が合理的に疑われる場合、ガザで個人を拘束する」と説明した。

IDFによると、一部の事例では刑事手続きが開始されているが、他の事例については、「戦闘から個人を排除するための予防拘禁が、イスラエルの法律とジュネーブ条約に完全に準拠したかたちで実施される」という。

「拘禁命令とその期間は法律で定められた通り、司法審査の対象となる」と、IDFは付け加えた。

IDFは、拘束中に死亡した事例を把握しているとしつつ、基礎疾患やけがをした状態で拘束された者も含まれると主張。個別の死亡事例については軍警察が調査しているとした。

(英語記事 At least 94 Palestinians died in Israeli prisons in two years, human rights group says

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cwy100jzw02o


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