ウクライナ西部の街テルノピリで19日、ロシアの空爆があり、集合住宅が被害を受けた。屋根が壊された建物で、白い煙が上がるなか、救助作業が進められた
ウクライナ西部の街テルノピリで19日未明、集合住宅2棟がロシアのミサイルとドローンによる攻撃を受けた。この空爆で子ども3人を含む少なくとも26人が殺害され、子ども18人を含む93人が負傷したと、ウクライナ当局が発表した。ウクライナ西部への攻撃としては、2022年2月にロシアがウクライナへの全面侵攻を開始して以来、最悪規模の犠牲をもたらすものとなった。
ウクライナ空軍は後に、集合住宅への攻撃にロシアのX-101巡航ミサイルが使用されたと発表した。
隣接するリヴィウ州とイヴァノ・フランキウシク州も攻撃を受けた。また、北東部ハルキウ市の3地区ではドローン攻撃により30人以上が負傷した。オンライン上に投稿された写真には、複数の建物や車が炎上する様子が写っていた。
ウクライナ空軍は、ロシアが発射したドローン476機のうち442機と、ミサイル48発のうち41発を撃墜したと発表した。このうちミサイル10発は、西側の支援国から供与されたF-16戦闘機やミラージュ2000戦闘機によって破壊されたという。
それでもウクライナ空軍は、「西側のパートナー国からの途切れることのない、適時の航空兵器の供給」が必要だと訴えた。これは、現在のウクライナの防空体制がいかにひっ迫しているかを示している。
首都キーウよりもポーランド国境に近いテルノピリは、全面侵攻開始以来ほとんど攻撃を受けてこなかった。ソーシャルメディアで共有された今回の攻撃の映像では、ロシアのミサイルが街に向かって飛来する中、地上からの防空の動きはほとんど見られない。
テルノピリの壊滅的な被害状況はすぐに明らかになった。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が共有した映像では、集合住宅の一棟が完全に崩壊している様子が確認できる。イホル・クリメンコ内相は、集合住宅が3階から9階にかけて破壊されたと説明した。
ゼレンスキー大統領は、この攻撃が「重大な破壊」をもたらしたと述べた。報道では、多くの犠牲者ががれきの中にいるとされた。窓から煙が立ち上り、外では小規模な火災が発生した。
テルノピリにある「絶えざる御助けの聖母教会」の背後には、巨大な煙が立ち上り、町中にサイレンが鳴り響いた。
ウクライナは限られた防空システムで、広大な国土を毎晩防衛しなければならない状況に置かれている。ロシアのミサイルやドローンを効果的に撃墜できるようになっても、そのうちの一部が防衛網をかいくぐり、テルノピリのような壊滅的な結果をもたらすリスクは常にある。
インフラが標的に、電力供給に影響
ウクライナ西部のほかの地域でも、エネルギー施設や交通機関、民間インフラが損傷を受けた。
イヴァノ・フランキウシク州ではエネルギー施設が攻撃され、子ども2人を含む3人が負傷した。
リヴィウ州でもエネルギー施設が被害を受けたと、知事が明らかにした。
ウクライナとロシアの戦争が4度目の冬に向かう中、ロシアはウクライナのエネルギー網に対する攻撃を強化している。ウクライナ側の士気や補給、ウクライナの防衛産業に打撃を与える狙いがある。
ウクライナの電力供給はすでに制限されている。エネルギー省は直近の攻撃を受け、全国的な追加停電を実施すると発表した。
ロシア国防省は、ウクライナの「軍需産業とエネルギー部門」を標的とした、「長距離精密兵器を用いた大規模攻撃」を実施したと発表。ウクライナが「民間の標的」を攻撃したことへの報復だと主張した。
ウクライナ軍は18日、アメリカから供与された「陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS)」をロシア国内の軍事目標に向けて発射したと発表していた。ウクライナがロシア領土への攻撃にATACMSを使用したと認めたのは初めて。
ロシア国防省は、ウクライナがロシア南部の街ヴォロネジに向けてミサイル4発を発射したことを非難。防空システムですべて撃墜したと主張した。
戦争終結に向けた協議は
こうした中、ゼレンスキー氏は戦争終結に向けたアメリカの取り組みを再び促進させるため、トルコの首都アンカラを訪問。レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と会談した。
クレムリン(ロシア大統領府)は先に、ロシア代表団はアンカラでの協議には参加しないと表明していた。
ウクライナでの戦争終結をめぐっては19日、アメリカのスティーヴ・ウィトコフ中東担当特使とロシア政府のキリル・ドミトリエフ特使が、28項目からなる和平案を策定していると報じられた。
しかし、クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、アメリカとロシアの政府が、ウクライナと欧州の支援国の関与なしに、ウクライナでの戦争をめぐる和平案を策定しているとする米メディアの報道を否定するような発言をした。
ぺスコフ氏は19日、「この件について、我々が『アンカレッジの精神』と呼ぶものに新たな革新はない」と、ロシア国営メディアに語った。「アンカレッジの精神」は、8月に米アラスカ州アンカレッジで行われたドナルド・トランプ米大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領の首脳会談を指している。
1日限りのこの会談で両首脳が合意した内容は公表されていない。
ゼレンスキー氏は20日に首都キーウで、ダン・ドリスコル米陸軍長官や米陸軍参謀総長のランディ・ジョージ大将と会談する予定だと報じられている。ドリスコル氏らについてロイター通信は、トランプ大統領の1月の就任以降にキーウで協議を行う最高位の米軍高官だと伝えている。
ロシアはウクライナの周辺国の領空にも侵入している。19日未明には、ロシアのドローンがルーマニアの領空を約8キロメートルにわたって飛行したと、ルーマニア国防省が発表した。同省によると、ドローンはその後、ウクライナとモルドヴァに侵入し、再びルーマニア領空に入ったという。
こうした事態を受け、ルーマニアとドイツの空軍機が緊急発進した。ドローンがどこに落下したのかは不明だと、ルーマニア国防省は説明した。
ポーランドも19日早朝に戦闘機を展開。ウクライナ西部へのロシアの攻撃を受けて、ポーランド南東部の二つの空港を一時閉鎖した。
ロシアによるウクライナへの全面侵攻は、来年2月に丸4年を迎えるが、ロシアとウクライナの両政府は、戦争を終わらせる方法について根本的に対立したままだ。
ウクライナと、アメリカを含む西側の支援国は、広大な前線に沿った即時停戦を求めている。しかしロシアはこれを拒否し、ウクライナが「事実上の降伏」に等しいと指摘する条件を飲むよう繰り返し迫っている。
ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は今月上旬、和平合意に向けてロシア政府が提示している前提条件は、全面侵攻を開始する2カ月前にプーチン氏が示した内容と変わりはないと述べた。ロシア側の前提条件には、領土割譲やウクライナ軍の規模に対する厳しい制限、ウクライナの中立化などが含まれる。
(英語記事 Children among 26 killed in one of Russia's deadliest strikes on western Ukraine)
