マムダニ次期ニューヨーク市長(左)とトランプ米大統領は、会談後の記者会見で終始笑顔だった(21日、ワシントン)
ケイラ・エプスティーン記者
アメリカのドナルド・トランプ大統領は21日、ホワイトハウスでゾーラン・マムダニ次期ニューヨーク市長と会談した。この会談は「今年最大の政治的対決」になると予想されていたが、結果的には互いを称賛し合う場となった。
民主社会主義者を自称するマムダニ氏は、今月4日の選挙後の勝利演説で、トランプ氏を「独裁者」と呼んだ。一方、ホワイトハウスの報道官はこの日の会談前、マムダニ氏の訪問を「ホワイトハウスに共産主義者が来る」と表現していた。
しかし、大統領執務室で並んだ2人は、驚くほど融和的な姿勢を示した。
両者は繰り返し、ニューヨーク市の住宅費高騰への対応という共通の関心を強調した。二人はしばしば笑顔を浮かべ、マムダニ氏が市長選の最中にトランプ氏の政治姿勢を攻撃し続けたことについて記者が尋ねると、トランプ氏はむしろ楽しそうな様子を見せた。
こうした会談の雰囲気は、アメリカ政治ウォッチャーの多くを驚かせたものの、住宅費負担危機への取り組みが政治的成功に不可欠だと二人とも認識していることが、あらわになった。
しかし、この「休戦」が果たして、マムダニ氏が来年1月1日に市長となった以降も続くのかは不明だ。
トランプ氏は、その時まで「彼を応援する」と述べた。
トランプ氏から称賛の嵐
融和的な雰囲気は、トランプ氏とマムダニ氏が報道陣に話し始めた瞬間から明らかだった。
非公開の会談後にメディアに向き合った際、マムダニ氏はトランプ氏の右側に立ち、手を組んでいた。一方、トランプ氏は机の後ろに座っていた。特にトランプ氏が、リラックスした様子だった。
トランプ氏はマムダニ氏への攻撃を控えただけでなく、実際に何度も称賛した。
トランプ氏は、マムダニ氏が「本当に素晴らしい市長になることを望む」と述べた。
また、「彼が非常に良い仕事をできると確信している」と付け加えた。
「ジハーディスト」と「ファシスト」について質問され
マムダニ氏とトランプ氏は、市長選を通じて政治的な舌戦を展開した。ホワイトハウス記者団は当人たちを前に、トランプ氏がマムダニ氏を「共産主義者」と呼び、マムダニ氏が大統領を「独裁者」と呼んだことに言及した。
しかしこの日、2人は過去の発言に関する複数の質問をかわし、相手をたたえ続けた。
記者がマムダニ氏に、トランプ氏を「ファシスト」だと思うかと質問した際、トランプ氏はマムダニ氏に回答を促した。
「大丈夫だ、ただ『イエス』と言えばいい」とトランプ氏は口を挟み、マムダニ氏の腕を軽くたたいて笑顔を見せた。「説明するより簡単だ」。
マムダニ氏の政治姿勢について、トランプ氏は取り立てて批判しなかった。多少なりとも批判的と言えるかもしれない表現は、「彼には少し突飛な考えがある」というものにとどまった。
トランプ氏の発言の中では、エリーズ・ステファニク下院議員(共和党)によるマムダニ氏への攻撃を、一蹴したことが特に目立った。ステファニク氏はニューヨーク州知事選に出馬しており、トランプ氏を強力に支えてきた政治的盟友の一人。
ステファニク氏がマムダニ氏を「ジハーディスト(イスラム聖戦主義者)」と非難したことを踏まえて、記者の一人が大統領に、「大統領執務室で今、『ジハーディスト』の隣に立っていると思いますか」と尋ねると、トランプ氏は「そうは思わない」と即答した。
「選挙戦では時に、いろいろなことを言うものだ」としたうえで、トランプ氏はステファニク氏について「彼女は非常に有能な人物だ」と付け加えた。
ニューヨーク出身という共通点
マムダニ氏とトランプ氏には共通点がある。2人ともニューヨーク出身で、クイーンズ区を故郷と呼んできた。
トランプ氏の幼少期の自宅はクイーンズのジャマイカ・エステーツ地区にある。マムダニ氏は現在、クイーンズのアストリアに住んでいる。
自分たちは同じようにニューヨークを愛しているのだと、マムダニ氏は話した。
最近のトランプ氏は、マンハッタンにあるトランプ・タワーで過ごすことはほとんどないが、記者会見を通じて故郷への愛着を率直に語った。
「(ニューヨークは)信じられないほど素晴らしくなれる。(マムダニ氏が)目を見張るような成功を収められるなら、自分はとてもうれしい」とトランプ氏は述べた。
トランプ氏はさらに、政治家として今とは別の人生を生きていたなら、自分もニューヨーク市長になりたかったと話した。
「手頃な価格」を重視
この日、トランプ氏とマムダニ氏が足並みをそろえているように見えた理由の一端は、どちらも生活費の問題を重視していることかもしれない。
昨年の大統領選でトランプ氏は、有権者が不満に思っていた高インフレ問題を集中的に話題にし続けることで勝利した。食料品、住宅、その他の必需品の価格に消費者の不満が高まる中、トランプ氏は経済安定重視のメッセージを伝えようとしてきた。
しかし、今月初めに行われた一連の選挙では、共和党が苦戦し、民主党が重要な選挙で勝利した。そして今は、米連邦議会の行方を決める来年の中間選挙に注目が集まっている。
選挙運動中、マムダニ氏は手頃な住宅の不足に焦点を当て、自治体が家賃の値上げ率の上限を設定している「レント・スタビライズド(家賃安定型)物件」の一部で家賃値上げを凍結するなど、複数の住宅政策を提案した。
マムダニ氏は記者会見で、トランプ氏と「ニューヨーカーに手頃な生活を提供する方法」について話し合ったと述べた。
2人の見解の違いに関する質問を受けるたびに、マムダニ氏はこの話題に会話を戻した。
中東和平の実現に関する見解の違いについて質問された際にも、マムダニ氏は、トランプ氏の支持者らから「永遠の戦争の終結」と「生活費危機への対応」を望んでいると言われたと答えた。
共和党の戦略に混乱も?
トランプ氏とマムダニ氏がすぐにも対立姿勢に戻り得る、重大な政治問題はまだある。
記者の一人は、ニューヨーク市での連邦移民法執行の可能性について質問した。この問題は民主党や一部の移民コミュニティーを激怒させている。
マムダニ氏は、ニューヨークでの連邦移民法執行の実施と、その方法に対する住民の懸念について話し合ったと述べた。
一方のトランプ氏は、移民よりも犯罪について議論したと語った。
「彼は犯罪を見たくないし、私も犯罪を見たくない」と、トランプ氏は述べた。そして、自分たちは「ほとんど何の疑いもなく」この問題でうまくやっていけるはずだと話した。
トランプ氏はさらに、マムダニ氏が治めるニューヨークで、自分は安全だと感じるだろうと述べた。
しかし、トランプ政権が積極的な強制送還目標を設定し続けるなかで、両者が再び対立する可能性は残っている。
また、この2人とその具体的な政策を超えた、別の潜在的な問題も存在する。
共和党は、2026年の中間選挙で米連邦議会の支配権を争う中、マムダニ氏を政治的な対抗軸として利用する意向を示唆している。
しかしトランプ氏は、大統領執務室でマムダニ氏を称賛しながら、ニューヨークの新しい市長が「一部の保守派を驚かせる」と信じていると述べた。
そうなった場合には、トランプ氏自身の政党にとって、戦略的にややこしい事態になるかもしれない。
(英語記事 'I'll be cheering for him': Takeaways from Trump and Mamdani's surprisingly cordial meeting)
