2024年11月25日(月)

今月の旅指南

2009年6月14日

 月刊WEDGE誌で『建築物語』を連載中の藪野健氏が第62回日本芸術院賞を受賞した。対象作品は『ある日アッシジの丘で』。この作品は、6月17日(水)~23日(火)、上野の日本藝術院に展示される。

藪野健氏

 また、受賞を記念し、「藪野健 青空に夢を刻む」と題した展覧会が、6月16日(火)から藪野氏の地元、府中市美術館で開催される<28日(日)まで>。20日(土)には、受賞作品をテーマにした記念講演も行われる。時間は14時から15時まで。

 藪野氏は、画家であり早稲田大学の教授でもある。文学部や芸術学校、政経学部、理工学部でも授業をする人気教授である。絵画に止まらず、映画、写真など幅広い芸術論が、学生たちを魅了している。そんな藪野先生の講演会は、是非とも聞いておきたいところだ。

「旧府中町役場」
「建築家の夢」

 藪野氏の絵画を見ていると、ふと「時よ止まれ お前はあまりに美しい」、ゲーテがファウストに語らせたこの言葉が思い浮かんでくる。時間という誰にも止めることのできない流れを、藪野氏は描くことで止め、それを記憶にまで高めると同時に、自らの記憶をも織り込んでいく。

 府中市美術館で展示される作品『旧府中町役場』のように、古い建築物というのは、同じ空間のなかにある現在と過去の同居をそのまま描くことであり、『建築家の夢』では、キャンバスという空間のなかに藪野氏自身が現在と過去の同居を作り出している。

 そうして藪野氏の絵を見ながら私たちは、未来へといざなわれていく。「過去というのは、記憶の累積です。その累積が未来を生むのだと思います」(藪野氏)と、記憶という根をたどり、今度は逆に未来へと新しい根を伸ばしていくのである。それこそが、文化というものに他ならない。
 

【藪野健(やぶの・けん)】

画家、早稲田大学教授、二紀会理事。近著に『東京2時間ウォーキング 銀座・日本橋』(中央公論新社)。
 ●個展「藪野健 青空に夢を刻む」 2009年6月16日(火)~28日(日)
●記念講演「ある日アッシジの丘で」2009年6月20日(土)14時~15時・無料
府中市美術館 東京都府中市浅間町1-3(都立府中の森公園内)
(問)042-336-4855                                                                                   

※「今月の旅指南」は月刊「ひととき」に掲載されていますが、この記事はWEB限定です。


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