プロ野球がポストシーズンで大いに盛り上がっている。クライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージはセ・リーグ優勝の阪神タイガースが同2位・広島東洋カープに3連勝で〝スイープ〟し、9年ぶりの日本シリーズ進出を決めた。パ・リーグは優勝チームのオリックス・バファローズが同2位の千葉ロッテマーリンズを相手にアドバンテージを含む4勝1敗としてCS突破。10月28日から開幕する日本シリーズでは1964年の阪神対南海ホークス(現福岡ソフトバンクホークス)以来、実に59年ぶりとなる関西対決が実現することになった。
その一方、対照的にCSで敗退した球団はストーブリーグに突入し、激動のオフを迎えそうな流れとなりつつある。その筆頭はセ・リーグのCSファーストステージで広島に敗れたセ3位の横浜DeNAベイスターズだ。エースの今永昇太投手は今オフ、ポスティングシステムを利用し、MLBへ移籍する可能性が高まっている。自身の去就については「熟考中」とし明らかにはしていないものの、すでに米オクタゴン社と代理人契約も締結しており、メジャー挑戦への気持ちはほぼ固まっているとみられている。
かねて今永は数年前から将来的なメジャーへの移籍願望を口にし、その意思が強まっていることに関しても球団側と契約更改の場で話し合いを重ねてきた。今季は先発マウンドに立った際、ネット裏からメジャーリーグ各球団のスカウトから熱い視線を送られ、ニューヨーク・ヤンキースやボストン・レッドソックスやロサンゼルス・ドジャース、アリゾナ・ダイヤモンドバックスなど4球団以上のMLB球団が今永の獲得に強い興味を示しているともっぱらだ。
今春の第5回WBCでも決勝戦の舞台で先発マウンドに立ち、選りすぐりのメジャーリーガーが顔を並べた米国代表を相手に先制ソロこそ許したものの2回1失点。堂々とした投球内容で侍ジャパンの世界一奪回に貢献した。
今年のレギュラーシーズンでは22試合に登板して7勝4敗、防御率2・80。奪三振数174個は両リーグ1位に輝き、ゲームメーク能力の高さは日本球界屈指だ。〝投げる哲学者〟の異名通りに頭脳派の投球術もMLB各球団から高評価を集めており、5年7500万ドル以上の好待遇で契約できると予想する米メディアもある。
しかも今永はMLBでは需要の大きい「左腕」だけにMLB挑戦を正式に表明すれば、争奪戦となることは必至だ。基本的にDeNAは今永の意思を尊重する方針だが、エースのMLB移籍となると当然ながら来季は大幅な戦力ダウンに直面することになる。
それならばDeNAは今永のポスティング移籍を容認しなければいいのではないか。普通に考えるとそう思いたくもなるだろう。だが、事はそんな単純な話ではないのが実情だ。
今永はすでに国内FA権を取得済み。順調にいくと2025年に海外FA権を取得することになるが、32歳を迎える同年では年齢面のネックから市場価値が急落する恐れも大きい。球団側としても今永の脂が乗り切っている今オフにポスティングシステムを利用する形でMLB移籍を成立させるほうが、海外FA権行使によって後々タダで出て行かれてしまうよりも多額の譲渡金を懐に入れられるので金銭的なメリットを得られる。損得勘定を精査すれば、今永本人がMLB移籍を要望するならDeNAにとっても今は最高の「売り時」ということなのだ。いずれにせよ、DeNAは今永の去就問題に直面し、苦渋の決断を強いられることになるのは言うまでもない。