2024年7月16日(火)

勝負の分かれ目

2023年10月22日

バウアー、戸柱、石田も……

 そして、もう1人。退団濃厚となっているのがトレバー・バウアー投手だ。2020年のシンシナティ・レッズ時代に最優秀防御率のタイトルとサイヤング賞にも輝くなどMLBのスーパービッグネーム。今年3月14日にDeNAと1年契約を結んだことが発表され、一軍初マウンドは5月3日だったにもかかわらず終わってみれば10勝4敗、防御率2・76の好成績を残し、球宴出場、月間MVPにも2度選出された。MLBで2021年7月2日から制限リストに入れられ、出場停止処分を受けていたことから2年近くも実戦のブランクがあったにもかかわらず、NPBにアジャストし、これほどの素晴らしい成績を飾ったとあれば、その価値が高まるのも必然の流れと評していい。

 バウアーとDeNAは出来高払いを含めた年俸総額300万ドル(約4億円)の単年契約。前所属のロサンゼルス・ドジャースから今年1月に今季2250万ドル(約33億円)の契約を残して解除されていたが、残り年俸は支払われていたため事実上、今季は「ダブルインカム」になっていた。来季のバウアーは今季の大活躍によって市場価値が再高騰するのは必至で、300万ドル程度の安価な年俸ではもはや済まされず「最低でも600万ドル」と球界内ではささやかれている。

 ドジャース時代にシーズン出場停止処分を受けたきっかけの性的暴行疑惑と関連する訴訟も相手女性側と今年10月に和解が成立。これで完全に「無実」が証明され、それまで敬遠していたMLB球団も複数のチームが日本で復活を遂げたバウアーの獲得に再び強い興味を示し始めている。サンディエゴ・パドレスやセントルイス・カージナルスなど複数球団が水面下でバウアー側にアプローチを開始しているとの情報も飛び交っているほどだ。

 無論、MLBだけではない。バウアーの獲得には小久保裕紀新監督の就任が決まったソフトバンクや、エースの山本由伸が今永同様に今オフのポスティングシステムでMLBへの移籍が濃厚となっているオリックス、東北楽天ゴールデンイーグルス、巨人など複数の国内球団も「調査に乗り出している」といわれている。

 日米大争奪戦の様相を呈し始めている中、バウアー本人は自身が来季プレーする球団の条件として1つに「優勝を狙えるチーム」を挙げている。DeNAもバウアーを全力で引き留める方針を示しているが、もはや超高騰が避けられない来季年俸に加え、何より今後大幅な戦力ダウンを強いられそうな雲行きから「優勝を狙えるチーム」という条件そのものが皮肉にも最大のネックとなりそうなだけに残留交渉は圧倒的に不利と言わざるを得ない。

 また、プロ8年間で通算600試合出場を誇る戸柱恭孝捕手も国内FA権を取得。権利行使するか熟考中の模様だが、長打力も兼ね備える「打てる捕手」として早い段階で他球団から目を引く存在となっており、FA市場に出れば争奪戦となる可能性は十分にある。

 同じく今季、国内FA権を取得した石田健大投手も権利行使すれば、先発だけでなくロングリリーフとしても起用可能な「ユーティリティー左腕」だけに〝人気物件〟となりそうだ。人的補償のない「Cランク」としてもFA市場では魅力的存在となるはずで「投手力強化を今オフの補強ポイントに置く巨人やソフトバンクなど複数のチームが石田のFA権行使の決断を注視している」ともっぱらだ。

 球界内からは「戸柱も石田もアレックス・ラミレス前監督時代には重宝されていたが、現政権の三浦大輔監督のもとではやや不遇な扱いとなっている。他球団からの評価が高いことを確認できれば、2人はプロ野球人生の勝負をかけて国内FA権行使に踏み切るのではないか」と分析する見方も出ている。

 来季も続投が決まった三浦監督は今永、バウアー、そして戸柱と石田の国内FA組について「全員残ってほしい」と切実な本音を訴えているが、果たして結論はどうなるのか。今オフのDeNAは一気に主力どころの〝草刈り場〟となってしまう危険性も漂っているだけに、編成担当も含めた球団フロントの手腕が大きく問われることになる。

 世のビジネスパーソンも今オフのストーブリーグで主役となりそうなDeNAの動きは、組織運営と照らし合わせる意味においてもプラスとマイナスの両面で参考になるだろう。 

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