2024年12月22日(日)

勝負の分かれ目

2023年7月28日

 一体どこまで進化を遂げるのだろうか。プロボクシングのWBC&WBO世界スーパーバンタム級新王者となった井上尚弥は、その異名通り「モンスター」だった。いや、それですら陳腐に思えてしまうほど井上の強さはとにかく衝撃的でインパクトが大き過ぎた。

(©SECOND CAREER)

下馬評を覆し、終始圧倒

 7月25日、東京・有明アリーナで同王者のスティーブン・フルトン(米国)に挑み、8ラウンド1分14秒TKO勝利。昨年12月に日本人初の世界バンタム級4団体統一王者となり、階級を1つ上げて臨んだ初陣でも、「最強」と称されていたフルトンを撃破し、25戦全勝(22KO)で無敗のまま4階級制覇を成し遂げた。4団体統一と4階級制覇を達成したボクサーは世界でも2人目の快挙だ。

 一夜明け会見で自ら「圧をかけた」と振り返ったように、序盤から左のボディジャブ、ボディストレートを軸に積極果敢に前へ出た。そして左腕で作った「L字ガード」でプレッシャーをかけながら、相手に距離感をつかませず「出て来なきゃいけないという展開を作りたかった」とし、足を使いながらのアウトボクシングやクリンチを連発されるような逃げ道を封じた。

 この序盤でのジャブの打ち合いを見ても、井上のパンチ力の強度は凄まじかった。フルトンは身長で4センチ、リーチでも8センチ上回っており、スーパーバンタム級に転向直後の井上にとっては一部からの下馬評で一発の重さが「じわじわと効いてくるのではいないか」ともみられていたが、こうした見解は見当外れで逆だった。井上に有効打を許していないにもかかわらずガードの上からでも、そのパンチの威力にフルトンは度々グラつかされた。

 それが証拠に1ラウンドでのジャブの差し合いを圧倒されたフルトンは井上の強烈なパンチに対して明らかに臆するようになり、2ラウンド以降はバックステップを使いながら距離を取ろうと下がり気味になった。

 ここからフルトンが早々とロープを背にするシーンも目立ち始め、一方の井上は逆にその2ラウンド中に相手のフックを鮮やかなスウェーイングでかわした直後、自らの顎付近をグラブで触れながら「ここに当ててみろ」と挑発するような仕草まで見せている。

 6ラウンドまでは完全な井上のペース。それが7ラウンドになるとフルトンが攻め込む場面が急に増え、接近戦で右フックやボディをヒットさせるシーンが目についた。ジャッジ3人も7ラウンドは全員がフルトンに10-9をマーク。しかしながら、この7ラウンドに関しても井上が同じく一夜明け会見で明かしたようにあえてペースを落とし、フルトンを攻め疲れさせたところで一瞬のスキを狙うという作戦の一環だった。

 それまで21戦8KO無敗だった「最強」の絶対王者フルトンを意のままに手のひらで転がしていた。そして狙い通り、8ラウンドに入って疲労の色が濃くなりペースダウンしたフルトンの顎めがけ、井上は右ストレートをさく裂させ、グラついたところに間髪入れず左フックを見舞い、ダウンを奪った。


新着記事

»もっと見る