井上はフルトン戦に勝利した後、それまで関心を示していなかった1階級上のフェザー級転向にも意欲を垣間見せるかのような発言をしている。それでもわずか3年の間にバンタムからスーパーバンタム、そしてフェザーと3階級を転向しながら世界のトップクラスと激しい試合をこなしていくプランニングに対しては「さすがの井上でも無謀過ぎるのではないか」とコンディション面へ与える悪影響を指摘する意見も少なくなく、これには実際に所属する大橋ジムの大橋秀行会長もやや懐疑的だ。
飛び交う〝夢の一戦〟の数々
井上がタバレスを打ち破ってスーパーバンタム級4団体統一を年内に果たしたとしても来年も同級にとどまり、ルイス・ネリ(メキシコ)やジョンリール・カシメロ(フィリピン)との対戦プランが急浮上している理由にはこうした背景がある。ネリは2017年に挑んだWBC世界バンタム級タイトルマッチで当時王者だった山中慎介をTKOで下し、新チャンピオンとなったものの後のドーピング検査で禁止薬物が検出。WBC本部の処分は見送られたが、2018年に組まれた山中とのリターンマッチでは体重超過での王座剥奪となり、当日再計量によって何とか成立した試合で山中を再びTKOで打ち砕き、日本のファンからは「悪童」として印象付けられている。
ネリはスーパーバンタム級転向を果たしており、元WBC世界同級王者でもある。今年2月にはWBC同級王座挑戦権をかけた試合で勝利し、前王者のフルトンへの挑戦権も保持していただけに新王者となった井上に挑戦する資格は十分だ。ネリは山中を相手に積み重ねた失態で日本ボクシングコミッション(JBC)から「永久追放処分」を食らっているが、国内ではなく海外ならば試合実現に弊害はないだろう。
また、カシメロにもWBO世界バンタム級王者だった2020年4月当時、米国ラスベガスのマンダレイ・ベイ・イベント・センターのリングで同じく当時WBAスーパー&IBF世界同級王者だった井上との3団体統一戦が実現するはずだったが、新型コロナウイルスのパンデミックによって試合が流れてしまったという経緯がある。
何かと井上をこき下ろし、挑発を繰り返してきた「問題児」としても日本のボクシングファンの間で有名だ。カシメロもまたスーパーバンタム級に転向しており、井上との対戦が組まれれば、それこそ4年越しの因縁マッチとなる。
それだけではない。井上には他の階級からも王者たちから対戦要求が殺到している。フルトン戦が行われた有明アリーナ興行でのセミファイナルでWBOアジア・パシフィックフェザー級王者の清水聡の挑戦を退けた井上と同じトップランクに所属するWBO世界フェザー級王者のロベイシ・ラミレス(キューバ)、さらにはWBA世界ライト級王者のガーポンタ・デービス(米国)までもが「イノウエと戦ってみたい」とラブコールを送っている。
だが、どんな強敵をこの先迎えようともモンスター井上なら重圧などものともせず、次々とリング上で相手を打ち倒していくことだろう。世のビジネスパーソンも今や「人類最強」とまでささやかれる井上の戦いぶりを目に焼きつけ、激動の時代を生き抜く日々の活力へとつなげてほしい。