2024年12月23日(月)

オトナの教養 週末の一冊

2014年8月14日

 リーマン・ショックの後、どん底を経験したアメリカの自動車産業が再生に至るまでの足取りを、現地調査を交えて詳細に分析した力作である。

 アメリカの自動車産業の実態は、日本からはよほど専門的に注意深くウオッチしないと見えにくい。その一方で、ネガティブな側面だけがことさら象徴的に伝えられるケースもある。

 最近はさすがに聞かないが、かつてよく言われた「アメリカで月曜日と金曜日に作られた車は買うな」といった類いの話はその典型だ。「休日明けや、休み前は労働者が気もそぞろになるので、車の品質が悪くなる」ということなのだろうが、実際の生産現場でかつてそんなことがあったのか否か、本当のところはわからない。ただ本書では、現在の生産現場ではそうしたことはあり得ず、規律良く働くビッグ3の労働者の姿を著者自身の目で確認している。

日米の生産現場の労働者
決定的に違う働き方

 筆者(中村)も数年前、実際に住んで経験したことだが、アメリカは途方もない車社会である。バスや地下鉄、路面電車などの公共交通機関はあるものの、多くの場合、大都市の周辺だけであり、広大な土地が広がる中、車がなければ生活に支障をきたすと言っても過言ではない。車は世代を問わず、誰もが使う身近な高額商品だけに、アメリカ人の車に対する感情やイメージは、日本人とは少し異なる感じがする。それゆえに、外国メーカーがアメリカ市場を席巻し、地元メーカーが押されてしまう現実を目にしたアメリカ人が複雑な感情を抱くのは理解できなくもない。車はそれほどアメリカ人にとって大きな存在なのだ。

 こうした背景を考えると、リーマン・ショック後、アメリカ政府が巨額の費用を投じて経営破綻したGM(ゼネラルモーターズ)やクライスラーに本気で支援したことは納得できる話ではある。本書は、経営再建を果たしたアメリカ自動車業界の背後にある生産現場の改革について解説した。


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