2022年12月2日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2014年8月14日

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中村宏之 (なかむら・ひろゆき)

ジャーナリスト

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスク、調査研究本部主任研究員などを経て2017年4月より読売新聞東京本社メディア局編集部次長。『御社の寿命』、『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』、(いずれも中央公論新社)など

 本書全体を通奏低音のように貫いているのは、アメリカと日本では、生産現場にいる労働者の働き方に決定的な違いがあるという論点である。アメリカの生産現場を実際に取材した経験のない筆者にとって、この指摘は非常に新鮮で、目が開かれるような思いがした。

 2009年の北アメリカ全体の就業者約1億1451万人のうち、6.8%にあたる約780万人が自動車産業による雇用者数となっている現状(日本は約8.8%、2011年)は、雇用の場を提供しているという意味でも重要な産業である。こうした中、アメリカの自動車工場で働くブルーカラーの労働者は、「同一労働、同一賃金」の職務給が優勢であり、内部昇格は少ないという特徴がある。「同じ職種であれば全員が同じ賃金をもらうといういわば集団・平等主義である」という著者の指摘は、まさに核心を突いており、能力主義の権化のような米国のビジネスのイメージからはかけ離れている。

 日本の自動車工場の生産労働者が能力主義によって処遇され、同じような職務についている者同士でも、働きぶりの違いで賃金格差が生じていることと比べると対照的だ。こうした現実について著者は、「1980年代以降はビッグ3でも伝統的平等主義的な働き方を能力主義に基づく処遇制度に変えるべく努力してきたが、いまだ変えることができない」と指摘する。

 さらにレイオフ(一時解雇)を行うにあたって同じ職場の組立工の中でどう順番をつけるのかについて、勤続年数の浅い順番から先に選ばれる「先任権」をレイオフ条項に盛り込む労働協約の割合が1920年~30年代に急増し、アメリカの企業社会に根付いたことも紹介されている。働き方や労使関係に着目することが、米自動車業界の本質を理解するために決定的に重要であることがわかる。

能力主義には着目せず……

 こうした中、ビッグ3を中心とする米自動車産業が日本などの競争相手に負けないようにどんな職場改革を行ったのか。著者は、厳格で硬直的な仕事の割り振りをより柔軟なものに変える「チームコンセプト」という考え方に現場が協力する一方、「先任権」は放棄せず保持し続けることでバランスを取る、というアメリカ的なやり方で改革を進めてきたと見る。

 ただこうした「日本的経営のアメリカ的展開」が難しかった背景には、日本の職場には能力主義があるという事実に着目しないまま進めてきた側面があることも併せて指摘した。

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