アメリカの自動車メーカーが苦境に陥り、破綻を招いたのは、職場の労使関係の問題が大きかったゆえに生産労働者の技能を十分に高められず、完成度の高い小型車製造に強い日本に迫れなかったことが大きい。この反省からアメリカの自動車産業は、生産現場の本格的な改革に乗り出す。工場の閉鎖、大規模なリストラに加えて、賃金改革、品質管理の強化などだ。しかし、依然として組織のあり方や働き方などにはまだまだ踏み込めていないところも多いのが実情だ。
日本の生産現場や生産方式を強く意識しながらも、その方向になかなか踏み込めないのは、米国社会に根ざす労使の関係であり、国民性や勤労観に関わる問題でもある。こうした問題をずばり指摘した本書は、日米の産業文化比較論として読むこともできよう。
自動車産業における日本型生産システムは優位性があるようにも見えるが、著者は、もろ手を挙げて日本型経営の万能性を称揚してはいない。グローバル生産体制が進展する中で、むしろ日本型経営にも改革すべき課題を抱えている点があることについても冷静に指摘している点は印象深い。
アメリカ人はなぜ、小型トラックが好き?
豊富なデータを使って緻密な論考をまとめた本書だが、読者が小休止できるようなコラムが随所にちりばめられており、理解の助けになっている。
例えば、アメリカ人はなぜ、小型(ピックアップ)トラックを格好良いと感じるのか? というコラムだ。私自身、米国に住んだ時には全く同じ思いにとらわれ、周囲の人に聞いて回ったが、結局、明確な理由はわからずじまいだった。著者も同様な疑問を抱いていたことを知り、大いに共感した。このほか、自動車と文化の町・デトロイトの栄枯盛衰、全米自動車労組(UAW)の支援を受けて選挙を勝ち抜いてきたオバマ大統領と自動車業界の密接な関係など、読みどころは豊富だ。
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