黒海においては、ウクライナ軍が世界に先駆けて開発・実戦投入している水上・水中ドローンが威力を発揮。ロシア黒海艦隊の主要艦艇の5割近くが既に破壊されて、残った艦艇も占領地クリミア半島のセバストポリ軍港から黒海東岸のロシア領内のノボロシスク港に避難して、逼塞している。
航空戦に関して、ウクライナ軍は昨年後半から開始した長距離ドローンやミサイルによるロシア領内深部や占領地クリミア半島への攻撃を一層拡大・激化させており、軍事施設に加えて、石油精製工場等の石油関連インフラ、倉庫を含む物流インフラ等に大きな被害が出ている。その結果、ガソリン不足や物不足等の目に見える形で一般ロシア人の生活に大きな影響が出ており、政府に近い世論調査会社ですら国民の6割以上が停戦を望んでいることを隠せなくなっている。
他方で、ロシア軍も今夏以降、ウクライナ軍の防空ミサイル不足を突いて、また、中国製のジェットエンジンを搭載した新型高速ドローンを投入して、ウクライナの港湾や鉄道、物流インフラ、工場や住宅等に対する攻撃を連日連夜激化させている。航空戦は、ロシアとウクライナの我慢比べの様相になっている。
再び動き出した停戦和平外交
外交面では、2月末のイラン戦争開始以降、ウクライナ戦争の停戦仲介から身を引いていた米国のトランプ政権が外交に再関与している。6月中旬に仏エビアンで開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)を皮切りに、7月初めのアンカラ北大西洋条約機構(NATO)サミット、7月終わりのワシントンでの米ウクライナ首脳会談を経て、8月25日には、ラトクリフ米中央情報局(CIA)長官が訪露して、ロシア側カウンターパートに対して、戦況に関する客観的な情報を突き付けた上で、ロシアは戦争に勝っておらず、戦争を継続すればロシアの軍事的経済的状況がさらに悪化すると警告した。
その後、ウィトコフ米特使およびクシュナー氏が9月5日にモスクワを、そして同6日には初めてキーウを訪問して、プーチン大統領およびゼレンスキー大統領と相次いで会談し、米・ウクライナ・ロシア三者停戦協議の再開を働きかけた。ロシア側は、苦戦しているにもかかわらず、間もなくドンバス全体を制圧できるという楽観的見通しに基づき、停戦条件としてドンバス全体の割譲を要求した。これに対して、ウクライナ側は、優勢な戦況を踏まえて、現時点での前線を停戦ラインにすべきであると主張した。
包括的な停戦に関するウクライナ、ロシア双方の立場が隔たっている中で、冬を前にしたエネルギー停戦等の部分的停戦の可能性も摸索されるなど、三者協議の再開に向けた米の仲介外交が継続している。9月22日、ニューヨークの国連総会の機会に会談したトランプ、ゼレンスキー両大統領は、三者協議再開に向けた外交努力を強化することを再確認した。
ここで重要なことは、1年前の8月に米アンカレッジで開催された米露首脳会談時と比べて、現在の米国がロシア寄りから、より中立的な立場で仲介外交に臨んでいることである。9月初め、筆者も参加した国際会議の場で、欧州主要国の安全保障の責任者は、トランプ大統領が戦況をより客観視して、ロシアが勝っていないことを理解したことが変化の理由であると言明した。
