病院も住宅も緊急対応
同僚らの証言によると、シピロワさんは9月29日に地元のシェレホフ地区病院に搬送された。数日前から高熱や呼吸器症状を発症し始め、この日、症状が急激に悪化したため緊急入院した。「重症の肺炎」と診断され、人工呼吸器を装着され集中治療室(ICU)で治療を受けた。
症状がさらに悪化する中で、シピロワさんが医療従事者に「職場で肺ペストの病原体が入った試験容器を誤って割ってしまった」と打ち明けた。
病院側は監督官庁であるロシア消費者権利保護・福祉監督庁(ロスポトレブナゾル)に緊急報告する一方、アウトブレイク(集団感染)を防ぐため、病院の一部病棟を閉鎖し、新規患者の受け入れを制限した。
翌日、ロスポトレブナゾル長官で首席衛生医師であるアンナ・ポポワ氏が現地入りし、緊急会合が開かれた。病院やペスト対策研究所でシピロワさんと接触のあった人が調査・監視対象となり、病院では医師や看護師らが、研究所では職員200人が外部との接触を絶つ隔離・医学的観察の対象となった。
シピロワさんが住む住宅でも消毒作業が行われた。地元メディア「バイカルの人々」の共同創設者オルガ・ムトヴィナさんが、独立系メディア「メドゥーサ」のインタビューに応じ、現地の様子をこう伝えた。
「住宅では、ガスマスクとオレンジ色の防護服を着た人々が車3台で乗りつけ、玄関ホールの消毒を始めた。非常に刺激的な不快な臭いだった」
作業員は3度にわたりやってきて消毒作業を行った、と住民は証言している。状況を何も把握できない住民が作業員に理由を聞いたところ、「ゴキブリ駆除のためだ」と答えたという。
公衆衛生体制の一角を担う
シピロワさんは1日夜から2日にかけて亡くなった。地元のイルクーツク国立医科大学で「医学的生化学」を専攻し、優秀な成績を収めて卒業した、将来を嘱望される若手研究者だった。大学時代から危険度の高い生物学的病原体の特定や臨床分析の分野で高い技術と知識を身につけており、研究に真摯に取り組む人物として周囲から評価が高かった。
近隣住民は、シピロワさんは穏やかな性格でとても誠実で、友人らも「万が一、誰かに感染させてしまうことを心配していた」と証言している。
