2026年10月10日(土)

プーチンのロシア

2026年10月10日

 シピロワさんは、1934年に設立され、感染症研究や極東地域のバイオハザード(生物災害)対策を担う国立中核機関のイルクーツクペスト対策研究所に就職した。

 シベリアでは野生のリスやウサギがペスト菌を保持しているとされ、対策として自然感染巣や病原菌の調査が急務だ。同研究所は防疫や抗菌薬研究の観点からロシアの公衆衛生体制の一角を担い、原因不明の感染症アウトブレイクが発生した場合、専門チームを即座に現地に派遣する体制も有していた。

 シピロワさんはこの研究所で実験助手・研究員として特に注意を要する検体の抽出や分析業務に従事していたと報じられている。

 専門家によれば、危険性の高い生菌を扱う、ペスト対策研究所のような施設では、作業員が二重・三重の防護服や陽圧ヘルメットを着用した上で、外部への空気漏れを防ぐエアロックが徹底された陰圧室の作業が義務付けられており、「試験管が割れた程度で研究員が感染することは考えにくい」との声があるのも事実だ。

 しかし、こうした指摘は絶対に事故が起きないということを証明するものではない。シピロワさんの命が尽きる直前に「試験管を割った」という証言がしっかりと検証されない限り、医学的に完全解明されたことにはならない。

「アウトブレイクはない」

 シピロワさんが亡くなって1週間後の8日、ロスポトレブナゾルは、シピロワさんと接触した全員に対する約5000件の検査を終え、「健康上の異常は確認されなかった」と発表した。シピロワさんが入院し、死亡したシェレホフ地区病院は、隔離措置や接触者の健康観察も終了し、外来は通常通り再開された。

 シピロワさんが住んでいた住宅では、全てが隔離対象となったわけではなく、メディア「バイカルの人々」によれば、「呼吸器系の感染症状を感じた場合は医師に連絡するよう」電話番号や受付時間が書かれた指示書を渡されたのみの住民もいた。

 そして、ペスト対策研究所では3日間、職員が施設内に缶詰めにされ、1日2回の検体採取を求められたが、10月4日ごろまでに全職員が解放された。当局は結局、危険な病原体は検出されなかったと発表した。2例目の感染疑惑はあくまでSNS上であがった情報であり、確認されたものではない。

 こうした中で、イルクーツク州のイーゴリ・コブゼフ知事は「一連の予防措置を完了した」と発表し、事実上、アウトブレイクは起きなかったことを宣言したのである。


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