2026年10月10日(土)

プーチンのロシア

2026年10月10日

感染リスクは「低い」が…

 一連の経緯をふまえても、なおもWHOなどが問題視しているのは、シピロワさんがかかった症状が「原因不明の肺炎」のままであり、明確に死因を特定できていないことだ。

 WHOは、ロシア当局にも情報提供を求め、10月6日に初期評価を出した。その際も、発生源のイルクーツク州全体でも感染拡大リスクを「中程度から低い」と見ていた。

 ペスト感染疑惑に対するロシア当局の措置への批判が高まる一方だが、厳密にいえば、WHOがロシアへ照会を行ったこと自体は、ロシアでのペスト流行や、ロシア政府の説明を虚偽だと認定したことにはならない。

 一方で、ロシアの措置は完全な火消にはならない。たとえ、接触者全員がペスト菌に陰性だったとしても、シピロワさんの死因がペスト菌ではなかったとの断定にはならないからだ。詳しい死因がわかってこそ、事案の全体像を把握できるのだ。

 さらに、①当局が認めた「約5000件の検査は誰を対象に、どのように行われたのか」②なぜ病院の閉鎖やペスト対策研究所の隔離措置が必要だったのか--の2点とシピロワさんが発症した「原因不明の肺炎」の因果関係についての報告があってこそ、今回の事案の正確なリスク評価が分析できる。

 新型コロナウイルス感染症 によるパンデミックがそうだったように、感染症が国境を越えて拡大する恐れのあるペストの発生に際しては、発生事案の検証の透明性を高め、各国が必要な情報を共有し、国際的なリスクを評価できるようにすることが再発防止策になる。

 ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官はネット上の情報ではなく、監督官庁のロスポトレブナゾルの公式情報を信頼するよう国民に呼びかけている。ロシア政府は「必要な情報はWHOに提供した」と主張しており、リスク評価の検討のためにWHOへ追加情報を提供する可能性は今後も未知数だろう。

 WHOは22年2月のウクライナ侵攻開始直後の総会で、ロシア軍によるウクライナ国内の医療施設への攻撃などを非難する決議を加盟国の賛成多数で採択した。その後も、WHOはプーチン政権の戦争継続の姿勢に対して、住民の健康に悪影響を及ぼす問題として注視している。

 ウクライナとの戦争が継続される中で、イルクーツク・ペスト対策研究所内部の記録の提供や、独立した国際機関チームの検証を受け入れることは、ほぼないと見ていいだろう。

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