3)中国からの世論・宣伝戦に備える必要がある。中国が仕掛ける宣伝戦に対抗するため、米国はそのアジア政策をより統一のとれたものに策定していかなければならない。中国はその宣伝戦において、米国人の弁護士や米国弁護士事務所を巧みに利用している。宣伝戦において、米国は受け身ではなく、攻勢にでなければならない。一党独裁下の中国では容易ではないが、中国人にできるだけ正確な情報が届くように、伝統的なメディアだけではなく、インターネットやソーシャル・メディアを利用する必要がある。中国側はインターネットを検閲したり、監視を強めているが、米国としてはこれらをかいくぐるためのソフトウェアを開発したりする必要があろう。情報が中国人に行き渡るようにすることが、中国の根本的な弱点を衝く効果をもたらすだろう。
4)中国の海洋進出については、米国としては航行の自由を一方的に制限しようとする中国の動きを具体的に公表すべきである。とりわけ、中国海軍の艦船による宮古海峡の通過などを公表することにより、中国が国連海洋法(例えば、200海里経済水域の規定など)を自分の都合のいいように二重基準で解釈していることを内外に周知させなければならない。
中国のA2/AD能力に対抗するために、米国は、統合的なアプローチをとる必要がある。米国は、中国に対する、大きなアドバンテージを持っている。それは、中国の周辺の国々のほとんど全ての国が、米国の友邦、同盟国であるという点である。こうした関係を梃子に使い、米国の信頼性と関与を強化することが鍵となる、と述べています。
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この論文は、これまで「アジア回帰」が抽象的に論じられてきたのに対し、具体的に、いくつかの措置を明示的に列挙したことに意味があります。何よりも、中国の露骨な拡張主義的政策の結果、今日の中国はアジア太平洋地域において孤立しつつあり、米国としては自信をもって対中国対抗策を打ち出すことが期待されている、というのは正鵠を射た指摘です。
今日の中国の宣伝戦の代表的なものは、「太平洋は中国、米国を受け入れるだけの十分なスペースがある」という太平洋分割管理論、あるいは「新型大国関係」論、さらには「アジアの安保構想」論などでしょう。これらの宣伝的表現は、習近平体制下で一層強まりつつあります。
宣伝戦のために、中国が米国人や米国弁護士事務所を利用しているという指摘は、これまでも多くの人によってなされてきました。この点については、日本との関係においても、中国は基本的に同じような方策を取ると考える必要があります。
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