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2014年10月22日

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弓野正宏 (ゆみの・まさひろ)

早稲田大学現代中国研究所招聘研究員

1972年生まれ。北京大学大学院修士課程修了、中国社会科学院アメリカ研究所博士課程中退、早稲田大学大学院博士後期課程単位取得退学。早稲田大学現代中国研究所助手、同客員講師を経て同招聘研究員。専門は現代中国政治。中国の国防体制を中心とした論文あり。

台湾と外交関係をもつニカラグア

 ただ、懸念も提起されている。運河がニカラグア湖を経由するものとなっており、この湖が同国での重要な淡水供給源となっていて湖や貧困地域への影響が懸念されるのだ。農民の反発は、農地の接収だけでなく開発による水質汚染への心配もあるのだろう。また環境の側面からいえばニカラグアの隣国にはコスタリカという風光明媚な自然を有する環境保全大国があり、こうした国のすぐ隣で大運河建設を行うのはいかがなものかという疑問も呈されるかもしれない。

 議論が起きているのはプロジェクトの影響だけではない。プロジェクトを率いる王靖氏の資格についても疑問が呈されている。王氏は信威通信産業集団の法人代表であり、2012年8月に香港にHKND社を設立したばかりである。同通信会社の業務分野は広く、物流や石油・電力、水上運輸、緊急通信事業等にも及ぶが、必ずしもインフラ建設の専門会社ではない。経験不足、資金の調達等懸念事項を挙げればきりがない。

 また、そもそも中国はニカラグアと外交関係さえない。台湾との外交関係を持っており、台湾と国交を断絶しない限り、中国がニカラグアとの外交関係を結ぶ事は考えられず、こうした国に政府が率先して経済支援や財政援助を行う事は考えにくい。このプロジェクトに対して中国外交部は既に中国とニカラグアは外交関係がないため、中国企業の同運河建設計画は全て「自主的な行為」と表明している。ただ同社と商務部(貿易分野の監督官庁)の協議で中国企業が運河経営を行わないようアドヴァイスされ、リスク回避のために同国と関係が密接なオランダに登記会社を設立して運河経営を行う事になっているという。

見え隠れする地政学的観点に基づいた外交戦略

 大運河建設は現存のパナマ運河と国際的輸送ルートを巡る物流競争の様相を呈しそうだ。パナマのバレラ大統領は、パナマ運河の拡張工事計画は順調であり、ニカラグア運河に500億ドルも拠出するのは実現可能だとは思えないと述べている。皮肉なことにパナマの運河管理局長がこの8月に中国港湾工程集団公司の関係者と会っているが、中国側はこの時パナマ運河の拡張工事への興味を示したという。つまり将来、中米の大型インフラ建設プロジェクトにおいて中国企業同士でのつばぜり合いが展開されるかもしれないのだ。

 HKND社は8月に国有土木建築大手の葛洲壩集団公司と戦略協力メモランダムに調印し、ニカラグアの運河建設のための協力関係を結んだ。こうしてHKND社自体はインフラ建設、土木に経験があるわけではないが、運河建設プロジェクトを率先する形で各分野の専門企業(そのほとんどが国有大手企業)を引き入れて計画を進めており、順調にいけば2014年中に着工予定だという。

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