「チェチェン・イチケリア共和国」は2000年以降、政府の体を成していないが、2007年には第5代「大統領」の故ドク・ウマロフが北コーカサスの広範囲を領土とする「カフカース首長国」の創設を一方的に宣言し、自身はアミール(首長)を名乗り、ロシアに対して多くのテロを実行してきた。また、カディロフの強権政治によって、チェチェンの過激派のほとんどはダゲスタンをはじめとした北コーカサスの近隣諸国に移動し、テロ行為を続けているという事実もある。
このようなただでさえイスラーム過激派によって不安定化している北コーカサスにISISの影響が加われば、ロシア政府にとって大きな脅威になることは間違いない。
なお、この宣戦布告に対し、カディロフはISISを見事に武装した破壊工作団であり、その目的はイスラーム教徒の殲滅にあると称した上で、ISISを支援しているのは米国CIAなど西側の特務機関に他ならないとまで言い(もちろんこのような証拠はなく、政治的な意味合いが深い発言だろう)、もしISIS勢力がチェチェンに侵攻してきた場合には殲滅すると警告している。さらに、チェチェンの青年たちもISISに対する抗議行動などを繰り広げており、国を挙げてISISに反発している。ちなみに、ウマロフの死を受けて、自称「カフカース首長国」第二代首長に就任したアリー・アブームハンマドことアリアスハブ・ケベコフは、自身の戦闘員に対し、ISISに関する全ての戦闘への参加を禁止している。
協力態勢を模索する米ロ
このように、ISISはロシアを含む、世界にとっての共通の脅威であることは間違いない。冒頭で述べたように、オバマ大統領はISISより「ロシア」のほうが脅威であるかのような発言をしたが、実際は米国がロシアに対し、ISIS対策での協力を提案した。
ウクライナ危機で米ロ対立が一層先鋭化するなかで、10月14日、米国のケリー国務長官はとロシアのラブロフ外相がパリで会談し、ISISの壊滅に向け、米ロがテロ対策の情報共有、イラク軍への武器供与、イラク政府軍の訓練などで協力することに合意したと発表した。米ロ間の立場や見解の違いはもちろん大きいが、それを認め合った上で双方に譲歩しつつ、可能な限りの協力をしていくことになったという。加えてケリーはロシアに対して、ISISやその他のテロリストやテロ組織の情報を共有しようと提案し、ラブロフも同意したとも述べた。
( 写真:代表撮影/ロイター/アフロ)