2024年12月15日(日)

Inside Russia

2014年12月25日

 バルトの鉄の女が、ウクライナの領土を蹂躙するロシアに警戒心を露にしている。旧ソ連から独立し、「命のビザ」の杉原千畝氏が滞在したとしても知られるリトアニア。第5代大統領、グリバウスカイテ大統領はNATO(北大西洋条約機構)の一員として、ロシアの拡大主義に真っ向から異を唱え、「彼らは隣人を脅威に陥れている」との危惧を繰り返す。リトアニアはEU(欧州連合)内でも対露強硬路線を主導。一方、プーチン政権はロシアを「テロ国家」と言ってはばからない鉄の女に「過激主義者」のレッテルを張る。東(ロシア)と西(欧米)の「新冷戦」の言葉も飛び交うつばぜり合いの中で、EUの本丸で、ある事件が起きた。

『レッド・ダリア』 暴露された大統領の過去

 ベルギー・ブリュッセル中心部に居を構えるベルレモンビル。EUの中枢機構が入居する19階建ての巨大な建物は上から見ると十字架の形をなし、周囲に威容を解き放す。重厚なセキュリティーが施され、部外者の立ち入りは厳しく制限されている。

 12月9日、各国選出の欧州議会議員やスタッフらのそれぞれのレターボックスに、英語で記された分厚い書類の束が投函された。

 その人数、ざっと750人分。『レッド・ダリア』という書籍のコピーだった。リトアニアの気鋭ジャーナリスト、ルータ・ヤヌッテ氏が膨大な資料をもとに、グリバウスカイテ大統領の生涯を解き明かした伝記である。ダリアとは大統領のファーストネーム。「赤いダリア」という異名は、「民主主義の旗手」のイメージには似つかわしくない彼女の秘された過去の暴露を暗示している。

大統領の学生時代の証明書(『レッド・ダリア』英語版サイトhttps://grybauskaite.wordpress.com/より)
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 1956年、リトアニアの首都ビリニュスで生まれたグリバウスカイテ氏は10代、20代の多感な時期を社会主義体制の中で過ごした。80年代にロシアのサンクトペテルブルクの大学で経済学を学んだ。ソ連共産党の青年組織「コムソモール」に所属したバリバリの共産党員であり、その経歴はソ連崩壊までついてまわった。

 電気技師の父親は表向きの肩書きを持ちながら、裏の顔を持っていた。独裁者スターリンが発足した秘密警察NKBD(内務人民委員部、後のKGB=ソ連国家保安委員会)とも深く関わっていたのだという。

 「レッド・ダリア」で、グリバウスカイテ氏は「信念を持たない、恥知らずな出世第一主義者」として描かれ、権力に固執する二枚舌の政治家であることが強調されている。ソ連崩壊とともに、共産党を見限った変わり身の早さから「裏切り者」との烙印が押されている。


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