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2015年7月2日

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村中璃子 (むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

 2003年には世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)が「総摂取エネルギー量の1%未満」という国際基準を設け、2006年にはアメリカでも商品パッケージへの含有量表示を義務付けられていたトランス脂肪酸。アメリカ保存食品製造業者協会(GMA)によれば、以来、メーカーの自主規制が進み、加工食品への使用量はすでに86%も減っているといいます。

 スターバックス、マクドナルド、KFCなど、日本でもおなじみのファストフードチェーンも、アメリカではもうトランス脂肪酸を使用していません(日本のマクドナルドは使っています)。なぜ今さらトランス脂肪酸だけを取り上げ、3年間かけて「撲滅」に乗り出す必要があるのか、やはり釈然とはしません。もし、トランス脂肪酸が微量でも深刻な毒性を持つものであれば、すぐにでも「禁止」となるはず。この悠長かつ厳しい判断は、国際基準があるとはいえ、未だにトランス脂肪酸の「安全な閾値」がはっきりしないことに加え、何か別の事情があることを伺わせます。

 バターなどの動物性脂肪に多く含まれ、トランス脂肪酸と同様に表示義務のある「飽和脂肪酸」は、早くも60年代から心筋梗塞のリスクを高める脂質として警戒されていました。70年代には、トランス脂肪酸と同様、悪玉コレステロールを上昇させることも分かっており、2000年代に入ってトランス脂肪酸の有害性が指摘されるまで、外食業界や食料品メーカーは、むしろ積極的に植物油脂由来のショートニング等を使う努力していたほどですが、飽和脂肪酸には、「市場からの排除」とまで踏み込んだ規制が課されることはありませんでした。

 背景にあるのは、アメリカ食品医薬品局(FDA)と業界団体、および市民団体との力関係です。バターに関係しているのは、全米酪農協会という強力な業界団体。最近では、バターの飽和脂肪酸だけではなく、牛乳とがんとの関係もしばしば指摘されていますが、この協会がある限り、バターや牛乳が市場からなくなることは決してないと言われています。一方、FDAの公式文書も、今回下した事実上のトランス脂肪酸禁止の判断は、科学的エビデンスや専門家の意見だけでなく、トランス脂肪酸を排除しようとする市民運動に応えてのものだとしているとしています。

 今回の判断の背景には、水素添加に代わる技術がすでにあるからだという意見もありますが、水素添加にかわる別の技術の安全性も確立してはおらず、トランス脂肪酸が他の脂質や添加物に比し、突出して有害であるというはっきりとしたエビデンスもありません。また、コーヒークリーム(乳製品に見えますが油脂です)など、特定の商品については水素添加以外の方法での製造が難しいものもあります。こうした中、GMAは、安全なレベルでのトランス脂肪酸使用を認める例外を設けるよう、FDAに嘆願書を提出する予定です。

(※後半に続く)

  
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