日本以外のすべての先進国は
100%の土地の地籍が確定している
驚いたことに、地籍調査という基本的な作業が完了していない先進国は日本だけなのである。ドイツなどの大陸法の国ではわが国と同じように地籍で管理しているし、イギリスなどではしかるべき役所に大縮尺の地図があり、それで土地を管理している。これらの方法によって、日本以外のすべての先進国は100%の土地の地籍が確定している。
土地の戸籍という基本インフラ(インフラ=社会の基本となる基礎構造)をないがしろにしている国は先進国では一国もないのだが、多くの国民はそれを知らない。なんと情けないことになっているのだろうと慨嘆せざるを得ないが嘆いていても仕方がない。先の国交省の心配は多くの現実となって、開発や災害復旧を妨げて厖大な費用と時間を無駄にしている。
有名な例の一つが、森ビルによる六本木ヒルズの開発である。この開発には17年もの歳月を要したのだが、なんとそのうちの4年間は地籍確定のために費やしたというのである。大変な時間と労力と費用を要したこの事業ができたのは、森ビルという大資本が情熱をもってあたったからなのだ。
大資本でなければ、土地利用の高度化を図ろうにも、時間とコストの前に尻込みしてしまうのではないか。大都市での土地利用の高度化が進まない大きな原因に地籍未確定問題があることは間違いない。
災害復旧でも現実に問題が生じている。東日本大震災では大地そのものが移動してしまったから、地籍を調査してそれを座標で記録しておかなければ、境界の復元のしようがない。宮古市も釜石市も地籍の確定率は50%以下であったし、仙台市ではわずか29%であった。土地の境界画定に相当の時間を要したに違いあるまい。
逆に地籍調査が完了していたために災害復旧が円滑に進んだ例もある。鹿児島県出水市や熊本県水俣市では土石流災害からスピーディな復旧ができたし、岐阜県北部の災害では、地籍調査実施済み地区と未実施の地区では復旧工事の着手に半年もの差が生じたという。
さらに地籍の未確定が道路整備などの事業の足も引っ張っている。地籍が未確定のため隣地同士に境界争いがあることが多く、「道路には協力するが、となりの主張する境界線では土地は売れない」というケースが頻発する。この調整には、とんでもないほどの時間と労力と工夫を要するのである。
この国は基本をいい加減にしたままの矛盾があらゆる局面で顕在化してきている感があるが、地籍の未確定は多くの時間・労力・費用を無駄遣いさせ、国力を削いでいる。