2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年9月4日

 中国の欧州での政治・経済的立場の強化はEU加盟国が協力・団結して対応することを必要としている。またEUと米国はより深い意見交換をすべきである。中国は各国の違いを利用する。たとえばハンガリーはシルクロードの最終目的地になることを提案し、英国は10月の習近平訪英を大歓迎しようとしている。

 欧州の指導者は個別に中国と取引きするのは欧州の立場を弱めると知っている。欧州は、内部で議論し、集団として中国に対すべきである。中国は、その経済的重みがゲームのルールに反映されるべしと主張するだろうが、欧州は、将来の経済秩序は法の支配や協力の原則に基づくべきであると言うべきであり、中国に国際慣行を順守する誘因をあたえる必要がある、と論じています。

出典:Jonathan D. Pollack & Philippe Le Corre,‘Why China goes to Europe’(Brookings Institution, July 29, 2015)
http://www.brookings.edu/blogs/order-from-chaos/posts/2015/07/29-europe-engagement-china-pollack-lecorre

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 この論説は、中国の対EU外交の狙いと欧州側の対応の問題点をよく指摘しています。

 中国は欧州を重視し、経済関係の増進を図っています。かつて、日本では、日米中の三角関係とそのバランスが論じられたことがありましたが、中国は日米中の三角関係など考えていません。むしろ、中国が考える三角関係は米中EUの関係ではないかと思われます。中国はグローバルな発想をします。対欧進出はそういう発想に基づいており、米欧との経済関係を一方的な依存にしないようにと考えているのでしょう。

 他方、欧州側は経済的利益重視で、アジアの安全保障への関心は強くありません。経済的にメリットがあれば、中国の構想に賛同することにあまり躊躇しません。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に欧州各国がこぞって参加したのがその証左です。欧州諸国にそれ以外の対応を求めるのは無理な面があります。

 しかし、EU諸国は日米と価値観を共にする国々であり、対中関係のあり方について米国と欧州が緊密に協議していくことが必要であるという、この論説の主張は当然でしょう。日本も欧州との協議を積極的に行い、日本が懸念と考えることを率直に伝えるべきでしょう。

 中国の欧州各国分断策には、それに乗せられないように慎重な対応が必要です。団結して対応するように努力することが重要です。諸案件については、それに付随した諸問題があり、簡単に意見は一致しないかもしれませんが、ともかく努力はすべきでしょう。

 例えば、ダライ・ラマ問題について、伊勢志摩サミットで、G7の首脳はダライ・ラマからの会談要請には原則として応じるという決定をG7首脳の合意をして行ってはどうでしょうか。各国首脳が対中関係に配慮して苦慮するのをやめられる環境を作ることになります。そういう対応を他の問題でもしていくことを考えればよいと思われます。

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