軽減税率の問題点として、実務的には事業者の負担の増大が挙げられてきた。経済学的には、軽減税率そのものに逆進性緩和という再分配効果が小さいこと、軽減税率の対象品目に需要をシフトさせてしまうことが指摘されてきた。
財務省案は還付ポイントに上限をつけることができるので、欧州型の軽減税率よりは所得再分配効果が期待できる。理論的にはよくできた制度である。
事務的な費用の大小を別にすれば、買い物の際に、消費税が軽減されるのか、事後的に還付という形で軽減されるのか、という消費税の軽減を受けるタイミングの違いが両制度の差である。その上で、財務省案では、還付金に上限をつけて再分配効果を強化することが可能になっている。
しかし、国民の間では、軽減税率に賛成する比率が高く、財務省の還付ポイント制度への支持は高くないようだ。例えば、毎日新聞社が9月19日と20日に実施した緊急全国世論調査によれば、消費税率を10%に引き上げる際に、軽減税率の導入することに「賛成」との回答は66%、「反対」は23%だった。財務省案の還付ポイント制度と軽減税率のどちらが好ましいかという質問では、「軽減税率の方が好ましい」が79%に達したという。
経済学的にも欧州の経験からも、軽減税率は非常に問題が大きく、導入しない方がいいとされている。それにもかかわらず、軽減税率がこれほど人々の間で人気があるのはなぜだろうか。本稿では、この点について考えたい。
軽減税率の経緯
そもそも、軽減税率導入の議論の発端は、自民・公明の与党税制調査会の平成26年度与党税制改正にある。「消費税の軽減税率制度については、「社会保障と税の一体改革」の原点に立って必要な財源を確保しつつ、関係事業者を含む国民の理解を得た上で、税率10%時に導入する。(中略)軽減税率制度の導入に係る詳細な内容について検討し、平成26年12月までに結論を得て、与党税制改正大綱を決定する」。
これを受けて、2014年6月5日の与党税制協議会で、「消費税の軽減税率に関する検討について」で、対象品目について8案が示された。
そして、平成27年度与党税制改正にも、「消費税の軽減税率制度については、関係事業者を含む国民の理解を得た上で、税率10%時に導入する。平成 29年度からの導入を目指して、対象品目、区分経理、安定財源等について、早急に具体的な検討を進める。」と記されて現在の議論につながっているのだ。