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2015年10月21日

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大竹文雄 (おおたけ・ふみお)

大阪大学社会経済研究所教授

1983年京都大学経済学部卒業、85年大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。大阪大学経済学部助手、大阪府立大学講師等を経て現職。博士(経済学)。

 軽減税率と言えば、低所得者に優しい政策だと思う人が多いかもしれない。しかし、生活必需品に対する生産者への補助金だと考えることもできる。そう言われても、本当に低所得者のためだと感じるだろうか。

 日本に住所がある個人や在留する外国人に一律1万2000円の定額を補助金として給付するという「定額給付金」政策が、09年3月4日に施行された。この政策は、バラマキ政策として批判された。所得水準に関係なく給付される補助金は、バラマキと言えるかもしれない。

 もし、定額給付金がバラマキ政策であるならば、軽減税率は定額給付金よりも質の悪いバラマキ政策である。高所得者の方がより多くの補助金を受け取る補助金政策に賛成する人はあまりいないだろう。

なぜ軽減税率は好まれるのか

 では、所得再分配効果がほとんどないにもかかわらず、軽減税率に賛成する人が多いのはなぜだろうか。

 第一の理由は、行動経済学で知られている「アンカリング効果」だろう。人々は絶対的な水準で損得を判断するよりも参照点からの差で損得を判断することが多い。消費税が10%であればそれがアンカーとなって、その消費税率よりも税率が低ければ得をしたと考える。

 もし、軽減税率が導入されたことによって、消費税率が11%になったとしても、軽減税率の存在が低所得者に優しいと感じられるのではないだろうか。定価が安く値引きがない場合と、定価が高く値引きがある場合で、どちらも値引き後の価格が同じ場合を比べると、値引きがある方が得したように感じてしまう。私たちは、定価という値段にアンカリングされてそこからの差で損得を感じてしまうからだ。

 第二の理由は、中所得者以上の人たちが、軽減税率によって自分たちの方が低所得者よりも得をすることを知っているが、軽減税率が低所得者対策であるという名目を立てることで、政策への正当化をしやすいというものである。これは、還付額に上限がついている財務省案に対する反発が大きいことと整合的である。

 第三の理由は、生活必需品の生産者が、自分たちの製品の需要を増やすために、軽減税率が低所得者対策であると主張することで、消費者の意識を歪めている可能性がある。

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