2024年4月19日(金)

安保激変

2015年10月30日

 9月下旬、習近平国家主席の訪米が国賓待遇だったことについても、ドナルド・トランプ氏、ジェブ・ブッシュ元知事やマルコ・ルビオ上院議員をはじめとする複数の共和党大統領候補から強い批判が出た。また、10月26日の米海軍駆逐艦の人工島12カイリ以内の海域の航行についても、CNNをはじめとする主要メディアでかなり大きく取り上げられているが、これも、2016年大統領選挙や中東情勢がメディアの関心の大勢を占めている現在では珍しい現象だ。米国内で厳しい対中認識が定着しつつあることを示唆するものだろう。

今後の焦点は何か

 それでは、南シナ海の人工島をめぐる米中の対立についてこれから見ていくとき、注目すべき点はどこにあるのだろうか。

 第一に、米国の今後の動きである。国防省はすでに、今回の航行がこの地域での航行としては最後のものにならない旨を明らかにしている。今後は、中国が領有権を主張する他の地域や、フィリピンやベトナムなど、中国以外の国が領有権を主張する地域でも、今回のように航行の自由作戦の一環として航行することになるだろう。これがどのくらいの頻度で行われるか、行われる場合、どのようなアセットを用いて行うのか、などに注目すべきだろう。

 第二に、中国の反応である。今回の航行については、習近平主席の訪米の前後の時期から、ジョン・リチャードソン海軍作戦部長をはじめとする国防省・米軍の幹部が様々なところで「南シナ海での航行の自由作戦実施の可能性」に時間をかけて言及を続けた。これは、そうすることで実際に航行したときの対応について考える時間を中国政府に与え、現場の部隊の過剰反応を防いだ、という見方もある。

 しかし、今後、米軍が南シナ海における航行の自由作戦を継続する場合、中国が例えば、現在、抑えている7カ所以外にも、さらに建造物を構築する場所を見つける、あるいは、まだ終わっていない建築活動のペースを上げる、などの対抗措置に出てくることは十分に考えられる。また、南シナ海での米軍の行動に対抗して、例えば、東シナ海や、より米国本土に近いアラスカ付近に再び現れるといった行動に出てくるかもしれない。

 いずれの場合も、米軍と人民解放軍の正面衝突には発生しないまでも、緊張が高まる可能性は十分にある。

 またに、米国が今後、航行の自由作戦に、地域の同盟国やパートナー国への参加を求める可能性が出てくることも当然、考えられる。米海軍だけが航行の自由作戦をしていると、中国との緊張が高まる一方だ。むしろ、多国籍の有志でこの活動を行い、中国の行動に不満を持つ国がいかに多いことを示すことで、地域での中国の外交的孤立化を目指す方が現時点での政策としては合理的だ。

 米軍との共同行動、同盟国同士やパートナー国同士での行動など、組み合わせはいろいろ考えられるが、今回の米国の行動に支持を表明した国を中心に、そのような打診が来る可能性は高いだろう(今、すでに内々に打診されている可能性もあるだろう)。


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