小欄でも取り上げて来たように、ロシアはシリアのアサド政権を擁護し、軍事介入(IS対策を目的として掲げるが、攻撃の大部分はアサド政権を攻撃する非IS系反政府組織に向けられている)を行っている。一方、西側諸国はアサド政権の退陣を要求するとともに、ロシアの軍事介入が事態を複雑化させ、米国を中心とする有志連合軍とロシア軍との間で偶発的衝突が発生する可能性があるなどとして懸念を示してきた。
これに対してロシアは今年8月頃からアサド政権を含む対IS「大連合」構想を提唱するとともに、ロシア軍をトルコ国境付近で活発に行動させることで西側のアサド政権に対する軍事介入を牽制する姿勢を示している。イスラエル、トルコ、米国などがロシアとの間で偶発的衝突防止のためのメカニズムを相次いで設立したが、「大連合」構想のほうは受け入れるに至っていない。
実際、今回のパリ同時多発テロ事件を経ても西側がロシアの構想にそのまま乗ることは考えにくいだろう。ただし、ロシアに有利な形で妥協を引き出せる可能性は高まったと言える。
対IS協力はあり得るか
これを軍事面と政治面に分けて考えてみたい。当面問題となる軍事面について、ロシア議会の諮問機関である公共院のマルコフ委員は、「西側がロシアを対テロ連合のパートナーとして認め、態度を変化させる可能性は低い」としつつ、次のように述べている(前述のITAR-TASS記事より)。
「ただし、米国を中心とするNATO諸国が西側の対テロ連合とロシアの間で調整アルゴリズムを設置することは充分にあり得る。これには歴史的な前例もある。第二次世界大戦中、反ヒトラー連合に参加するソ連の西側同盟国、すなわち米国及び英国は、第二戦線を開いた。そしてともに勝利したのだ。今日、政治家たちが人間の安全保障に対するテロリストの挑戦に対して決定的な反応を打ち出すべく努力を結集するという希望は残っている」
つまり、ロシアとNATOがともに肩を並べて戦うことは考えにくいにせよ、互いが戦略的なレベルで連携し合うことならあり得るのではないか、ということである。
第二の問題は、政治的なレベルである。パリでの同時多発テロの影に隠れてほとんど注目されていないが、ウィーンで開催されていたシリア問題に関する外相級協議が15日に終了し、共同声明が発出された。共同声明によると、米露サウジアラビアなど17カ国から成る国際シリア支援グループ(ISSG)は、シリアでの停戦に向けた取組(ただしISやアル・カーイダ系組織であるアル・ヌスラ戦線その他のテロ組織との戦いには適用されない)を支援するとともに、シリア政府と反政府組織との対話を来年1月1日を目処に実施する。また、世俗政府の設立と新憲法制定に向けた移行プロセスを6カ月以内に策定し、「自由かつ公正な選挙」を18ヶ月以内に全シリア人参加の下で行うとしている。