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2015年11月18日

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小泉悠 (こいずみ・ゆう)

東京大学先端科学技術研究センター特任助教

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)、『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版)。『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

アサド退陣と引き換えにロシアの影響力維持?

 いわばシリア内戦の終結に向けた新たな和平案で米露が原則合意した形だが、細目では依然として対立が残る。最大の問題はアサド大統領の処遇で、一説によると、ロシアは今回の協議に先立ち、アサド大統領の退陣は認めるが、新政権にアサド派を参加させることや、ロシアの軍事基地を維持することなどの妥協案を提案したとも言われる。

 アサド大統領の退陣と引き換えにロシアの影響力を残すというものであるが、今回の共同声明では否定も肯定もされていない。

 もうひとつの問題は、ISやアル・ヌスラ戦線と並ぶ「その他のテロ組織」をどのように定義するかである。IS及びアル・ヌスラ戦線を「テロ組織」と認めることは共同声明でも明記されており、移行後の新政府を「世俗政権」としていることからもイスラム過激派の排除は既定路線と言える。ただ、反政府勢力を支援してきた米国やサウジアラビアとしては「その他のテロ組織」の範囲をなるべく限定したいのに対し、ロシア側としてはアサド政権閥の影響力を保つ為になるべく多くの反政府組織を新政府から排除したい。

 『ブルームバーグ』(11月13日付)が端的に述べているように、ロシアが「長いリスト」を望むのに対し、米側は「短いリスト」を望むという対立が生じているのである。ロシアの経済紙『コメルサント』11月13日付によれば、特に「ジャーイシュ・アル・ムハジリン・ワル・アンサール(JMA)」や「アフラ・アシュ・シャーム」といった組織をテロ組織と位置づけるかどうかが議論の分かれ目であるという。

 今後のシリア和平プロセスにおいては、こうした点が大きな焦点となると見られるが、ここでもロシアはパリ同時多発テロのインパクトを利用したいものと見られる。国際政治専門誌『国際政治におけるロシア』のルキヤノフ編集長は、ロシアは今やシリアにおける最大の軍事的プレイヤーとなっており、このような軍事的影響力を政治的影響力に変換することで和平プロセスを有利に進めうるとの見通しを述べている(ヴァルダイ・ディスカッション・クラブ、11月15日付)。

 つまり、シリア内戦においてロシアが軍事的に大きな役割を果たし、西側にとっても無視できない存在である限り、和平プロセスもロシアの意向を無視しては進められないだろうという読みである。この見立てからすれば、ロシアの軍事介入は今後も後退することは考えにくいだろう。

 むしろ、今後の和平プロセスの進展に従ってロシアの軍事介入はさらに激しさを増してくることも考えられ、その動向が注目される。

  
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