ここで、課徴金命令の対象者が、「法令違反にあたるようなことはしていない」と考えている場合や、「法令違反は認めるが課徴金額が高すぎる」と考えているような場合には、審理のための期日(審判期日)が開催され、そこで反論をすることになります。
もっとも、課徴金命令の対象者が課徴金命令に不服がない場合には、審理を省略するのがスムーズです。そこで、審判手続の開始にあたり答弁書を提出し、それら法令違反と課徴金額を認めることを表明した場合には、審判期日を開催することなく(すなわち実質的な審理が行われることなく)課徴金命令を決定することができるとされており、通常はそのまま課徴金命令が下されることになります。
おそらく、東芝の場合は、課徴金納付命令の審判に際して「法令違反と課徴金額を認める」という内容の答弁書を提出したことで、実質的な審理を経ずに課徴金納付命令が決定されたものと思われます。
一方で、新日本監査法人の場合は、「法令違反と課徴金額を認める」という内容の答弁書が提出されていないため、審判期日が開催され、実質的な審理に移行しているものと推測されます。
注目される審判での判断
現時点では、今後、新日本監査法人が審判期日でどのような点を争うのか(あるいは、最終的に何も争わないと判断するのか)は明らかではありません。金融庁のウェブサイトによると、第一回審判期日は2月17日に予定されていますので(昨年12月25日時点の予定)、その時点でどのような主張が出てくるかが明らかになると思われます。
そのうえで、どのような点が争点となるのかを予想しますと、虚偽の財務書類を虚偽のないものと証明した監査法人に対して課徴金の納付が命じられるのは、監査法人が①故意に虚偽の無いことを証明したか、または、②相当の注意を怠ったために虚偽を指摘しなかった場合に限られます。
そして、今回の審判では金融庁としても、新日本監査法人が「故意に違反行為をした」とはしていません。
そうすると、本件では、新日本監査法人が、監査業務を実施するにあたり「相当の注意を怠っていたといえるかどうか」が争点となる可能性があります。
特に、本件は監査法人に対して課徴金の手続が取られた初の事例ですので、今回の審判の結果は、監査法人に対する課徴金納付命令の実務について一定の指針となる可能性があります。
監査法人にどのような事情があれば「相当の注意を怠った」として課徴金が課されるのか、審判手続の行く末に注目したいと思います。
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