2024年12月22日(日)

ドローン・ジャーナリズム

2016年2月19日

 伊豆半島の伊東市に「大室山」という山がある。約4000年前に噴火した火山で標高は580メートル、まるでプリンのような形をした綺麗な円錐型の山である。その可愛らしい形に魅せられて観光客も多く、伊東市のシンボルとしても親しまれている。有名な伊豆シャボテン公園に隣接し、大室山登山リフトを使って6分ほどで山頂まで登ると1周1キロメートルのお鉢巡りができる。ちなみにこの山は歩いての登山は禁止されている。

 火山学的には、こういう山を「スコリア丘」と呼ぶ。スコリアとは火口からの噴出物の一種で、玄武岩質のマグマが冷え固まったもの。ざらざらした気泡の多い塊で軽石と似ているが成分が異なり、鉄分を含んでいるため赤っぽかったり黒かったりする。このスコリアが火口から放物線を描きながら噴出し、それらが堆積すると傾斜30度〜35度の円錐型の山を形成する。これが「スコリア丘」だ。

 富士山麓にも「大室山」という名のスコリア丘の山がある。富士五湖の一つである精進湖から富士山を眺めるときに、その手前に重なって見える山がそれである。富士山がまるで子どもを抱いているように見えるため、精進湖畔から見る富士山のことを「子抱き富士」と呼ぶ。こちらの大室山は富士山の側火山で樹海の中にあり、木々が生い茂っていて登山道もなく、また国の特別保護地域に指定されてもいるため、許可がなければ立ち入ることができないような場所である。

 そのほか、全国にたくさんスコリア丘型の火山は存在し、噴火後の経過年数や標高などによって形状は様々であるが、年数が経てば富士山麓の大室山のように樹木に覆われるのが普通であろう。しかし、伊東の大室山はそうではない。夏場は下の写真のように山全体が緑色となり、秋から冬にかけてその草が枯れ茶色になる。大室山では1年に1回山焼きが行われて来たため、年を越す樹木が育たず全てが一年草で覆われるのだ。この山焼きによってまるで人工的に作ったかのような美しいフォルムが現在も保たれているのである。

 「大室山山焼き」は、茅葺き屋根の材料である良質のススキを採取するために約700年間続いている行事で、害虫の駆除や新芽の育成を促すために行われてきた。現在は農業としてススキを育てることはなくなったが、春の一大イベントとして毎年2月の第2日曜日に行なわれている。今年は2月14日のバレンタインデーが開催予定だったが、この日は関東で春一番が吹いた日で、朝からところによっては風速20メートルを超える強風が吹き、また大雨に見舞われたため1週間後の21日に延期することになった。

4K 空撮 / 大室山の山焼き 2015年2月15日

 この映像は2015年2月15日の山焼きの様子をドローンで捉えたもの。昨年は開催予定日が降雪のため順延となり、予定より1週間遅れの開催となった。効率的に山全体を焼ききるために、山の麓に待機した着火担当者(一般客も参加可能)は、風上側から徐々に点火を始める。炎は風に乗り徐々に上部に燃え広がり、約15分ほどで山全体を焼き上げる。その光景はまるで山火事そのもの。さっきまで薄茶色をした山肌が焦げて真っ黒に変貌する。

 当日はまず山頂の火口の内側を焼く「山頂お鉢焼」が、午前9:30から行われる。その後、正午から山全体を焼く「全山焼き」が始まる。大室山の麓に「さくらの里」という公園があり、ここが山焼き観覧のメイン会場となる。ここから見る山焼きは、火の熱が伝わってくるくらいの大迫力なのだが、近すぎて怖いと思われる方もいるかもしれない。大室山はひらけた場所からであれば、ある意味近所のどこからでも見ることができる。そのため、近くの小学校の校庭や、田畑の脇の空き地から山を眺めている人も多くいた。炎が上がると観覧者から歓声があがる。火はあっという間に燃え広がり山全体を覆うが、燃えるものがなくなるとすぐに鎮火する。山が焼きあがった瞬間、冬の終わりと春の訪れを感じホッとする。いい行事だと思う。

 ドローンで撮影した映像の1分20秒あたり、炎が勢い良く上がっているすぐ脇にある周回道路を普通に車が走っているのが映り込んでいる。こんな山火事ようなイベントだが、近隣の方々にとっては毎年繰り返される日常的な出来事なのだということを印象付ける映像だ。

 前述の通り、今年の山焼きは1週間順延となったが、この時期は天候が不安定なのでまだどうなるかはわからない。一昨年は豪雪の影響で1ヶ月も遅れたそうである。興味を持たれた方は大室山に出かけてみてはいかがだろうか。ちなみに開催の可否は当日朝7:00に決定し、ウェブサイトやTwitter、facebookで告知される。

参考
大室山リフト ウェブサイト http://omuroyama.com
Twitter @ohmuroyamalift
facebook https://www.facebook.com/omuroyama.lift/

  
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