2024年11月23日(土)

風の谷幼稚園 3歳から心を育てる

2009年12月3日

 そして、先生が捕まっても平気にしている様子を見て、子どもたちは「追いかけられて捕まっても平気」という認識を持ち始める。そこで「捕まっても平気な子ども」を見極めて、少しずつ追われる立場を経験させるようにする。この段階では全クラスの3分の1くらいが「捕まっても平気な子ども」になるが、残りの3分の2はやはりまだ怖いままだ。

 それと並行して「がらがらどんの鬼ごっこ」や「狼さん、今何時?」などの虚構の世界での「鬼ごっこ」(風の谷幼稚園ではこれを「ごっこの世界での鬼ごっこ」と呼んでいる)を経験させていく。虚構の中では、リアルに追いかけられるような恐怖はないので、鬼に追いかけられ捕まるということも素直に受け入れやすい。こうして丁寧に恐怖心を取り除いていく。

 ちなみに「狼さん、今何時?」は多くの方が経験されているかもしれないが、この遊びのポイントは「自分が逃げ込む場所が確保されている」ということにあるという。逃げ込む場所があるから、子どもたちはスリルを味わいながら先へ先へと冒険をしていけるようだ。

本気で遊ぶからこそ子どもたちは学ぶ

 こうした準備を積み重ねた後に、次に待っているのは「ひっこし鬼」だ。これはネズミと猫とに分かれ、ネズミには2つの陣地がある。そして「ひっこしだ!」の掛け声に合わせて、猫に捕まらないようにもう一方の陣地に逃げ込まなくてはならない。

 この「ひっこし鬼」、子どもたちにとっては真剣勝負そのもので、そのときの反応も激しいものがある。再び学級通信を見てみよう。

必死で逃げる文平くんをこれまた必死で追いかける麻子ちゃん。両手で文平くんにタッチです。まさに体当たり的タッチのため文平くん、すっとんで尻もちをつきました。
痛さと悔しさで怒り泣きの文平くん、「バカッ、バカッ!」の連発。望くんに助け起こされても気持ちがおさまらず、麻子ちゃんになぐりかかっていきます。麻子ちゃんは泣きだしそうな顔をしていましたが、されるがままにしています。
「文ちゃん、もうやめな」と私が声をかけると同時に、文平くんのパンチが一発、麻子ちゃんのボディに入りました。それでも麻子ちゃんは泣き出しませんでした。(当然、大泣きをするだろうと思っていたので、これは意外でした)
文平くんのほうは先生からストップがかかったということとパンチが入ったということで怒りがおさまったのが「このバッカやろう!」という捨てゼリフを残して鬼の陣へと向かいました。
文平くんが鬼の陣へと歩き出すのを見送ってから麻子ちゃんも鬼の陣へ引き上げていきました。
                                                                 花組 学級通信「すくすく」より

 この他にも、あちらこちらで泣き声、怒声が響き渡る。この動物的感情を丸出しで戦う(?)子どもたちを先生は見守り、一線を越えたと思えば飛んで仲裁に入る。これを繰り返す中で「捕まったら鬼にならなきゃいけない」という現実を直視し、受け入れ、気持ちを切り替えられるようになってくるという。そして、ようやく「鬼ごっこ」を遊びとして楽しめるようになるのである。


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