――また、先ほど「未病の段階から治療する」とおっしゃっていましたが、これは普段からエコノミークラス症候群を予防するという考えもあるのですか?
劉 はい、そういった考えも含まれます。有事の時にあわてて予防を行うのではなく、普段から予防法を実践しておいてエコノミークラス症候群になりにくい身体をつくる。つまり身体も「備えあれば憂いなし」にするのが東洋医学的な考えです。
例えば日常生活の中で、エコノミークラス症候群予備軍になりやすいのは長時間パソコンで作業する人です。ずっと座って同じ姿勢で長時間作業するのは、狭いところに閉じこもっているのと変わりません。
最近、私の治療院では、エコノミークラス症候群の未病にあたる足のだるさ、内腿の痛みを訴えてくる患者さんが多くなっています。特別なスポーツをしたわけでなく、他に心当たりもないと。それで良くお話を聞くと、共通していたのは「長時間のパソコンによるデスクワーク」でした。
――長時間同じ姿勢で緊張を強いられる仕事は、「エコノミークラス症候群」予備軍になる可能性があるのですね。
劉 他にもたくさんありますが、長距離バスやトラック、タクシーの運転手さんなども注意した方が良いですね。
でも一番怖いのは、未病の症状が出ても、エコノミークラス症候群に繋がると思わず、特に改善しないままその姿勢を続けてしまうことです。ですので、時々身体の内に意識を向けて、どんな症状がでているかをチェックする習慣をつけましょう。
――普段の生活の中でも、「エコノミークラス症候群」を意識して身体のチェックを行うことが大事なんですね。では実際、未病の症状を感じたときは、先ほど教えていただいた運動を行えばいいと。
劉 できれば全身を動かしましょう。その方法をご紹介する前に「気血の巡り」のシステムをご説明させてください。
東洋医学では、先に述べた通り「気血の巡り」の状態を診ます。「気血の巡り」が良いほど健康体です。ですが気血は血液と同じように、心臓から全身を行き渡るというわけではありません。お臍から指3本下の位置にある「丹田」という場所に気血を意識的に集め、そこから呼吸や動きによって体の隅々まで送ります。ただ、身体が緊張で強張っていると、そこで流れが止まってしまうので、まず身体をリラックスした状態にする必要があります。
そこで身体をリラックスさせ、気血を集めて全身に巡らせる手段として太極拳があります。