幕末から明治期に活躍した蒔絵師・柴田是真〔ぜしん〕。その洒脱なデザインと卓越した技巧は欧米での評価も高い。現在、三井記念美術館で開催中の展覧会では、初めて里帰りするエドソンコレクションを中心に約100点の是真作品が公開されている。監修者の板橋区立美術館館長・安村敏信氏に、是真の魅力と展覧会の見どころについてうかがった。
――柴田是真の芸術は日本よりも欧米で高く評価され、多くの作品が海外に所蔵されているそうですね。日本であまり知られていないのはなぜですか?
安村氏:1つは、江戸時代の美術は時代が新しすぎて評価が低かったということ。日本の美術といえば桃山時代までという考えが30~40年前まであったんです。特に、幕末から明治にかけて活躍した芸術家は最も評価されていない。河鍋暁斎〔かわなべきょうさい〕、絵金〔えきん〕、菊池容斎〔ようさい〕らも同時代の優れた画家ですが、時代が江戸と明治にまたがり、江戸美術にも明治美術も入らないので忘れられているんですね。もう1つは、日本人にとって漆は日常生活に溢れていますから、わざわざコレクションする気にならない風潮があったのだと思います。ところが外国人にとっては“ジャパン”といえば漆だった。かつてはヨーロッパの貴族がステイタスとして集めていたほどです。
「柳に水車文重箱」江戸~明治時代・19世紀 エドソンコレクション The Catherine and Thomas Edson Collection,courtesy of San Antonio Museum of Art
――是真作品の魅力をひとことで言うと?
安村氏:なんといってもデザインが洒落ていること。もう1つは、“だまし絵”的な面白さがあるところですね。青海波〔せいかいは〕塗、紫檀〔したん〕塗、青銅塗など、いわゆる“変塗〔かわりぬり〕”を駆使して、人の目を錯覚させ、混乱させる。当館(板橋区立美術館)所蔵の漆絵「花瓶梅図漆絵」も、紫檀の板に描いているように見ますが、紫檀塗という技法で紙に描かれたものです。花瓶の下敷は石の台のように見えますが、これも漆で描いたもの。エドソンコレクションの「柳に水車文重箱」は、水車の羽1枚1枚が全部、変塗なんです。ほんとうは5枚全部同じ塗で問題ないのに、あの人は1枚ずつ塗を変えるんです。普通の人には違いがわからないのにね。一生懸命苦労して描いているのに、それをわざと見せないようにしている。