2024年4月25日(木)

風の谷幼稚園 3歳から心を育てる

2010年1月28日

 この自分が痛みを感じる経験は、相手の痛い思いを知ることにもつながる。さらにこれが「力の加減を知る」ことにもつながっていく。チームで勝利を目指したり、攻撃と守備を切り替えたりするだけであればテレビゲームでも体験できるだろうが、体で痛みをリアルに感じるラグビーだからこそ、この感覚は育っていくのである。

 もちろん、安全面が気になる方もいらっしゃるだろう。しかし、この時期の子どもたちの体は柔軟だ。つまり、思い切りぶつかったり転んだりしたとしても、子どもの「しなやかさ」はそれに十分対処することが可能である。大人と比べて、大怪我をする確率は「ラグビー」という言葉から想像するほど高くはないのである。

 「手を使う」「いっぱい歩く」という方針のもと、密着レポートで紹介してきた「いも掘り」「鬼ごっこ」「なわとび」の他にも、恵まれた自然環境の中での遊びを通じて、子どもたちの体はすくすくと成長し、体力もついてきている。誤解のないよう付け加えるが、再三指摘してきたように風の谷幼稚園での「体力づくり」は「心を育てた結果」であり、「怯まない」「あきらめない」「素早く気持ちを切り替える」という強い心とセットで育まれてきた体力である。この心と体があれば、十分「ラグビー」に対応できるとの判断があり、そこから得られる教育効果は、怪我のリスク以上に大きいと考えているのである。

 なお、子どもの遊びに擦り傷、切り傷、ねんざなどは当たり前だ。最近ではこの当たり前だったはずのことが当たり前ではなくなってきているようだ。過保護なのか、責任を問われるのを恐れてか、体を激しく使う遊びは全般的に避けられる傾向にあるという。しかし、入園説明会時に「思い切り体を使って遊んだ結果、怪我をすることくらいは覚悟してください」という園長の方針に納得している親たちだから、クレームが出ることもない。それどころか、親同士が戦うラグビーも行われることが風の谷幼稚園のユニークなところである。(これは次回紹介する)

ラグビーはケンカじゃないよ!

写真右下のマットにボールをつけたら点数が入る。

 ではラグビーの取り組みは、具体的にどのように進んでいくのかを見ていこう。冒頭のエピソードにあるように、まずは全員でルールを共有することからスタートする。ちなみに、ルールは幼稚園用にアレンジされており、その内容は、

・「ボールをゴール(マット)につけたら1点」
・「ボールを抱えてしゃがみこんでしまったら、『先生ボール』となって試合は中断。先生が再度ボールをグランドに投げ入れて試合再開」(これは安全性を確保するためのルール)

 というシンプルなもの。そして初日から試合が始まるのである。

 8人ずつの4グループに分かれ、先生から「5点取ったチームが勝ち」と伝えられた後、

 「さあ、始めるよ!そぉーれ!」

 という掛け声とともに楕円形のラグビーボールが先生の手によってグランド中央に投げ入れられる。


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