「今日からラグビーをするよ」
朝の会でそう声をかけると、「よっしゃー」とやる気満々の奎吾くんと心平くん。「何? それ……」といった表情の仲間たちに、先生が「ボールを横にパスするの」「ぶつかっていくの」と一生懸命説明をするのですが、聞けば聞くほどわからなくなっていく子どもたちでした。
鳥1組 学級通信 「おおばこ」より
さて、年中児クラスもいよいよ3学期を迎えた2月。風の谷幼稚園では「ラグビー」のカリキュラムが始まる。「幼稚園児にラグビー?」と思われる方もいるかもしれないが、開始から1週間もすれば、ルールを理解し、体ごとぶつかりあいながら、仲間とともに「勝つための作戦」を考える子どもたちの姿がある。では、このカリキュラムに秘められた教育意図とは何なのか? 2回にわたって詳細をお伝えしていこう。
体が柔軟な時期だからこそ
学べることがある
密着レポート第3回「幼児期の食生活と大人の責任」でご紹介したように、風の谷幼稚園には教育実践上の柱として「体ごと遊ぶ」という方針がある。「ラグビー」のハードさは説明には及ばないが、普段から体を存分に動かす風の谷幼稚園においても「体ごと遊ぶ」の最たるものだろう。
ラグビーをカリキュラムに取り入れているのには、もちろん理由がある。チーム一丸となって同じボールを追いかけ勝利を目指すラグビーは、風の谷幼稚園が重視する「人と心を通い合わせる」ことを経験するには格好の素材である。密着レポート第14回「相手を深く知るためには?」でもご紹介したように、1つの目標に向かって行動を共にすることで仲間との絆を深めていくことができる。
また、オフェンス(攻撃)とディフェンス(守備)がめまぐるしく入れ替わり、時にはボールを奪われた悔しさや痛さを感じながらも、瞬時に攻撃に転じていかなくてはならないラグビーは、密着レポート第10回「鬼ごっこは大人への第一歩」でご紹介した「気持ちの切り替え」を体で学んでいくにも適している。
「仲間との関係が深まってきたこの時期、体ごとぶつかりあう遊びを経験させたいという思いから、ラグビーに取り組んでいきます。楽しい思いだけでなく、引っ張られる苦しさや、ぶつかり合う痛さも遊びの中のひとつとして受け入れられるようになるといいなと思います」(滑川教諭)