優しくて強い経済を作ろう
駒崎:子育てをしながら働きやすい環境を作る上では、セーフティネットを張るのも大切だと思います。そもそも待機児童っておかしな言葉ですよね。小学校に行くのに待たされる子どもはいないわけで。
出口:義務教育をもっと小さい年齢から始めればいいと思いますね。小さい子どもはお母さんが家で育てるのが一番というのは神話でしかありません。ホモサピエンスは20万年前に生まれましたが、定住生活は1万3000年前から。それまでは群れで動いて、働ける者が働き、子どもはいっしょにまとめて面倒を見ていた。人間は集団保育で育ってきた動物です。家でお母さんだけがケアしなくてはならないだなんて過去の人類の歴史上なかったんです。
駒崎:にもかかわらず、保育園を新たに作らず、子どもや子育てにお金を投入しないのが日本です。少子化を克服したスウェーデンとフランスは、対GDP比でそれぞれ2.85%、3.5%を投じていて、どちらも出生率は2%台に回復しました。ところが、我が国の支出は1.3%でフランスの半分以下。過小投資なのに精神論で何とかしろといっている。竹槍でB29を落とせと言っているようなものです(笑)。
出口:セーフティネットは本当に大事ですね。非正規でもいざというときに安心できるのが一番です。例えば、立場が弱いパートやアルバイトは本来、厚生年金にすべきところが国民年金です。僕は少しでも給与を得ているなら、全部厚生年金にすべきと思います。ただ、これをやろうとすると中小企業が「社会保険を取られたらつぶれる」と口を揃えるんですね。
でも、同じことをやろうとしたドイツのシュレーダー前首相は「人を雇うことはその人の人生に責任を持つこと。社会保険料を払わないような会社に人を雇う資格はない」と言って法律を通した。結果的にドイツの企業は強くなりました。社会保険料を払えない企業は、厳しい言い方をするとゾンビ企業。生き残っていたら経済が弱くなる。新陳代謝を良くした方がいい、と思います。
駒崎:長い目で見て、優しくて強い経済を作るということですよね。付加価値が高くて、より利益の出る産業に変えていく必要があると思います。
出口:本当にそうです。人間の幸福は、普通にご飯が食べられて、好きなことを言えて、フランスのように自由に子どもを産みたいときに産んで育てられる社会ですよ。
駒崎:同感です。そのためにも声をあげて行動をしないといけないですね。セーフティネットの話は世代間対立になりやすいんですが、意識が高いシニア層もいます。『世界一子どもを育てやすい国にしよう』では、世代が違っても共闘できるんだということを本で表せたと思っています。
<プロフィール>
駒崎弘樹(こまざき・ひろき)
1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、「地域の力によって病児保育問題を解決し、子育てと仕事を両立できる社会をつくりたい」と考え、2004年にNPO法人フローレンスを設立。日本初の「共済型・訪問型」の病児保育サービスを首都圏で開始し、共働きやひとり親の子育て家庭をサポートしている。2010年からは待機児童問題の解決のため、空き住戸を使った「おうち保育園」を展開。2014年には、これまで保育園に入れなかった医療的ケアのある子ども達を中心とした障害児を専門的に預かる「障害児保育園ヘレン」を開園。2015年4月からは、医療的ケアのある障害児の家においてマンツーマンで保育を行う「障害児訪問保育アニー」をスタートするなど、「社会を変える」社会起業家として活動している。
<クレジット>
文/三田村蕗子
撮影/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
※本記事は、ライフネットジャーナル オンライン様のご厚意により、同ウェブサイト掲載の記事を転載させていただいたものです(元記事はこちら)。