2024年11月26日(火)

佐藤悦子 バランス・マネジメント

2010年2月2日

 たとえば、広告代理店の博報堂から転職して外資系の化粧品会社クラランスのPRマネージャーに就いたとき、私はまだ28歳で、競合他社のPRマネージャーの方々より10歳前後若く、化粧品業界でのキャリアも知識もゼロでした。雑誌の編集長をはじめとする編集スタッフのみなさまとコミュニケーションをとっていくことが、当時の私の大切な仕事のうちのひとつでしたが、みなさま、私からみれば雲の上のような人に感じられ、アポひとつとるのも大変な状況でした。一方で、他ブランドのマネージャークラスの方はすでに各メディアの方々と強力な信頼関係を構築されていて、新商品の露出の企画も次々に決めていかれていました。

 今だから言えますが、正直「まずい!!」と心底焦りました。

 かといって、一足飛びにまわりの大ベテランたちと同等のポジションにリーチするのも無理です。「とにかく地道に自分のポジションを築いていくよりほかはない」と自分に言い聞かせ、コツコツと社内の先輩や同僚に化粧品について、美容について教えていただきながら対外的なお付き合いをそのつど勉強していき、少しずつ自分なりのやり方を見つけながらポジションを作っていった3年間でした。

「素人である」という心がまえが、もたらしてくれること 

 化粧品のPR職から、いまのクリエイティブビジネスの世界に飛び込んだときも、同様です。

 「自分は本当に何もわかっていない完全部外者の素人だ」

 その自覚がはっきりしていればいるほど、すべてまわりのみなさまに教えていただきながら、一から学んでいくしかありません。

 同時に「クリエイターの環境を今よりもっとよいものにしていきたい」という想いもあるので、部外者だからこそ見える改善した方がよい点や一般社会での常識と違うのでは……?と感じる点についてはどうしたらこの状況を変えていけるかということを考えながら、まずは今、自分のいる世界のことを理解することからスタートしました。

 サムライに参加したばかりのときは、私は「自分は完全素人だ」というスタンスを忘れないことで、実は「全体を冷静に観ることができる」という感覚を学んでいけたのかもしれません。

 そういう意味では同じ業界に長くいるとついつい慣れて気がつかない部分に違和感を感じたり、そこをなんとかよい方向に変えていきたいと思うときに「アウェイの立場」を忘れず、他の業界での経験をもとに応用していくというのは、ひとつの有効な方法かもしれません。

筋の通った仕事には、冷静さと情熱が必要不可欠

 そして、私が、素晴らしいクライアントの方々から日々学ばせていただいているのは、仕事に対する情熱の大切さです。そういったかたがたのお話をうかがったあとというのは、実にすがすがしい気持ちにさせられます。会社や事業が利益を上げる、売上を伸ばすというのは当然の目的の一つですが、それ以上にビジョンと申しますか、どういう「つもり」でこのビジネスに取り組んでいるのかという大きな志を持っていらっしゃるので、お話を伺っているだけで、こちらも新しい視点や考え方の勉強になります。また、仕事への情熱がおありであればあるほど、話に耳を傾ける側への心配りも行き届いていらっしゃるというのも共通点かもしれません。


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