フィリピン国内で原発稼働の是非をめぐる議論が再燃している。対象になっているのは、首都圏から西に直線距離で約80キロ、バタアン半島東岸に建つバタアン原子力発電所だ。1984年にほぼ完成したが、86年のチェルノブイリ原発事故などの影響で当時のコラソン・アキノ大統領が稼働を凍結したまま、30年以上が経過している。
クシ・エネルギー大臣は11月半ば、「(ドゥテルテ)大統領は稼働にゴーサインを出した。しかし、安全面ではかなり慎重な姿勢を示している」と述べた。8月下旬にはすでに稼働の可能性に言及していたが、大統領は「任期中に原子力エネルギーに頼ることはないだろう」と難色を示していた。その後の大臣との協議で考えを一転させたようだ。
バタアン原発の稼働・修復に必要な予算は10億ドル。環境保全に力を入れるレガルダ上院議員は「2017年の政府予算案に稼働に必要な予算は計上されていない」と述べ、稼働の是非の判断には徹底調査が必要との考えを強調した。環境保護団体などからも稼働反対の声が相次ぎ、歴代政権同様、実現の目処は不透明だ。折しも11月下旬、隣国ベトナム政府は、日本とロシアが受注していた原子力発電所の計画を中止した。
バタアン原発は73年のオイルショックを契機に、当時のマルコス大統領が事業計画を決定した。建設工事に23億ドル、凍結後の施設維持費に年間で約100万ドルが投じられてきたが、老朽化は進んでいる。米ウェスチングハウス社製で発電量623メガワットは、ルソン地方における電力需要の少なくとも10%を賄う。国家電力公社(NPC)によると、海抜18メートルに位置しているため「東日本大震災級の津波が襲来しても操業は維持できる」という。
フィリピンでは石炭、天然ガス、石油による火力発電が全発電量の7割を占め、電気料金は東南アジア域内でも高額なことで知られる。アロヨ政権下の07年ごろ、将来的な電力不足への懸念からバタアン原発の稼働案が本格化し、09年から韓国電力公社(KEPCO)による事業可能性調査が進められてきた。しかしその2年後に起きた福島第一原子力発電所の事故に伴い、アキノ前大統領は「原子力エネルギーの利用を優先課題から外す」と言明し、稼働案を一時棚上げした。ドゥテルテ大統領の下、結論が出るか、注目が集まっている。
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