2024年12月22日(日)

前向きに読み解く経済の裏側

2017年2月13日

 国際収支統計が発表になり、日本の経常収支は大幅な黒字でした。これは、「日本株式会社」が儲かっているという嬉しいニュースなのでしょうか? 今回は、経常収支というものについて考えてみましょう。

(iStock)
 

経常収支という統計(経済初心者向け解説)

 経常収支という統計があります。これは、貿易収支、サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支を合計したものです。

 貿易収支は、財の輸出から輸入を差し引いたものです。貿易収支と呼ばれる統計は、もうひとつあります。通関統計の輸出から輸入を差し引いたものです。統計の作り方が微妙に異なっているため、数字が多少異なっています。正確なのは国際収支統計の中の貿易収支ですが、両者の差が小さいこと、通関統計の方が先に発表され、しかも内訳が細かく発表されること、などから、通関統計の方が注目されることが多いようです。

 サービス収支は、外国人旅行客が日本で使った宿泊料、飲食代などから、日本人旅行客が海外で使った費用などを差し引いたものです。特許料なども含まれますし、外国企業の飛行機などを使った費用なども含まれます。

 貿易収支とサービス収支は、性質が似ているので、併せて「貿易・サービス収支」として取り扱われることも多いです。日本人が働き、外国人が楽しみ、その対価を外国人が日本人に支払うのが貿易・サービス収支の受取で、外国人が働いて日本人が楽しみ、その対価を支払うのが貿易・サービス収支の支払いで、その差額が貿易・サービス収支です。日本のメーカーが自動車を作って外国人に使わせてあげるのと、日本人の料理人が外国人旅行者に料理を振る舞うのと、同じことだ、というわけですね。

 第一次所得収支というのは、日本人(日本企業、日本政府などを含む)が外国から受け取った利子や配当などから、日本人が外国に支払った利子や配当などを差し引いた値です。第二次所得収支というのは、日本政府が貧しい国に援助をしている金額の一部などです。

経常収支は、家計簿に似ている

 家計が黒字か赤字か、というのは、収入の範囲内で生活できたか否か、言い換えれば貯金が増えたか否か、ということを意味しています。経常収支も、似ています。貿易・サービス収支の受取は、他人のために働いた対価ですから、給料収入に該当します。同支払いは、他人に働いてもらって対価を支払うのですから、消費に該当します。第一次所得収支は、銀行預金の利息などに該当し、第二次所得収支は赤い羽根共同募金などに該当します。

 家計の黒字は、銀行預金の増加などとして蓄えられます。同様に経常収支の黒字は、外国に対する貸付などとして蓄えられます。銀行などが米国の国債を買ったり、メーカーなどが外国に工場を建てたりする費用に用いられるわけです。こうした蓄えの総額(外国からの借金を差し引いた額)を「対外純資産」と呼びます。「日本国の貯金」ですね。

 家計が黒字だというのは、基本的には嬉しいことです。失業して給料がもらえないから家計が赤字だ、というのは最悪ですから。もっとも、例外もあります。「仕事が忙しかったので、残業代が入った一方で、使う暇がなかった」というのでは、あまり嬉しくありませんね。「頑張った自分への御褒美として欲しかった自動車を買った」という場合には、家計簿は赤字ですが、嬉しいものですね。

 今ひとつ、現役世代の家計は、黒字が当然なので、小幅な黒字では喜べません。「老後のために、これしか貯金できなかった」と反省すべきです。一方で、老後の家計は、現役時代の蓄えを取り崩しながら生活するのが当然なので、赤字が当然であって、小幅の赤字ならば喜ぶべきです。

 これは、企業の決算が赤字か黒字か、ということとは異なります。企業には「老後は現役時代の蓄えを取り崩す」「楽しむために支出する」ということがありませんから、黒字は善、赤字は悪です。この違いは明確にしておく必要があります。経済学では、「経常収支の黒字赤字と善悪は関係ない」とされているのです。


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