宇宙開発は世界の勢力図を変化させるか
編集部:中国がこのまま‘強国’になると、この分野の勢力図はどう変わるのでしょうか。
寺 門:東西冷戦の時代までは、米ソが二大宇宙大国として競っていたわけです。その後、ソ連が崩壊したあとは国際宇宙ステーション計画が始まって、米露に欧州・日本が加わり、この4強が中心となりました。この4強に対抗するもっとも大きな勢力が中国なのです。そして、これからは米中が二大宇宙強国となっていくでしょう。
そのなかで、欧日露がどのような関係性を結んでいくのかはまだ分かりませんが、日本はこれまでのように、アメリカと組んで開発を続けていくと思います。
欧州にはしたたかさがあり、アメリカとも中国とも関係を結んでいます。ロシアは独自の路線を取りたいところでしょうが、欧州と同じように米中両方との関係を保つだろうと覆います。
前述の通り、中国の目的はアメリカに対抗する勢力を作ることです。宇宙開発を軸の1つとして、自分の影響下にアジア、アフリカ、南米などの発展途上国、なかでも資源を多く持つ国を含めるつもりです。「シルクロード経済圏」を構築するべく、周辺の国々とも宇宙開発をともにし、自国の経済圏としてつなぎとめておきたいという意図もあるでしょう。
そういった意味で、中国が台頭してくることによってアジア、中東、アフリカの国々と中国の連帯感が出てくる可能性もなきにしもあらず、です。宇宙開発を自分の勢力拡大に利用するという、アメリカも日本も行ってはこなかったことをしようとしています。
編集部:今後も宇宙開発を進めていくことに旗幟鮮明であることがわかりました。しかし、それを支える人材や教育についてはいかがでしょうか。
寺 門:人材教育を視野に入れると、中国の宇宙戦略がますます日本やアメリカにとって大きな脅威となることはなおのことです。
なぜなら、中国では若くて有能な人材が数多く宇宙開発に従事しているからです。アメリカのデータ(2014年発表)によりますと、中国の宇宙開発に関わっている全人口の55%が35歳以下なんです。中国で宇宙開発に関わる人口は、企業や発射基地などの裾野まで含めると100万人はいると考えられます。そうすると、数十万人は35歳以下の人間です。エネルギーがあり、創意工夫もあるでしょうし、未来への意欲もある。中国にとって革新的なパワーとなりえます。中国はいま、人工衛星の開発やロケット打ち上げなどもさかんですので、技術を学ぶための実地が多くありますから、大学の勉強だけではなく、経験する機会にも恵まれています。
一方、米日露は、だんだんと宇宙開発人口の高齢化がすすんでいます。とくにロシアとアメリカはそうです。冷戦時代に若者として活躍した人々はいま退職を迎えつつありますが、宇宙に関わる仕事自体が減ってきていますので、若い人にうまくバトンタッチできていないという実態があります。ただ、アメリカは「スペースX」をはじめ、宇宙に関するベンチャー企業が育ってきていますので、そういう若い会社が参入してくるということはあるかもしれません。日本についていえば、若い人たちにとって宇宙でミッションを行う機会が少ないことは問題です。
さまざまな要素を考慮しながら、中国の宇宙開発をウォッチしていくことが、安全保障の観点からも重要だと思います。
(了)