軍事・民生利用の「デュアルユース」が基本
編集部:中国のような大国が政府主導でビッグサイエンスに注力するのは、宇宙開発を、軍事利用を目的としたプロジェクトと位置づけているからではないでしょうか。
寺 門:そうですね。中国の宇宙開発の基本が、民生・軍事両用の「デュアルユース」にあることは明確です。
デュアルユースは、科学技術開発に必ずつきまとう問題です。たとえば原子力は電力を生むための平和利用もできるし、原爆を作り出すこともできる。ウィルスの研究は、人の病気を治すためにも使えるし、生物兵器にも応用できる。
日本とアメリカ、欧州は、基本的には民間利用と軍事利用を分けて進めています。アメリカでいえば、NASAは民間で宇宙利用するための機関です。一方、軍事衛星打ち上げ等、軍事利用については国防総省が担当しています。
しかし中国の場合には、最初から軍事と民生の両用にするという、デュアルユースを前提とした形で進められてきました。開発史を見ても、人民解放軍が宇宙開発を進めてきており、人民解放軍が計画を運用しているのです。ですから、ロケット開発、打ち上げ、人工衛星の開発、利用企業も軍民が一体となっているというところが、中国の宇宙開発の特徴なのです。
中国の宇宙開発は、科学の側面から言えば進歩を評価できることも多いのですが、同時に懸念するのは、その目的が、習近平国家主席がいつも言う「中国の夢」実現であるという現実です。「中国の夢」というのは、「中国がアメリカをしのぐ国家になる」というもので、習政権のキーワードとして常に語られています。宇宙開発も、この夢を実現するための手段の1つとして考えられているのです。
そもそも宇宙開発というのは、人類の共通の利益のためにあるべきだと、私は考えています。しかし中国の場合は、中国のためだけに宇宙開発を行っており、懸念を深めるところです。彼らは2007年に、ASAT(人工衛星破壊兵器)の実験を行いました。このときは自国の人工衛星を破壊したのですが、将来的には敵国の衛星を破壊するための研究を続けています。破壊する手段は、ミサイルだけでなくレーザーなども利用するかもしれません。
それから、宇宙空間の利用ということについてです。宇宙空間には、気象衛星、通信衛星、地球観測衛星などさまざまな種類の人工衛星が飛んでいます。いま中国は、宇宙空間は戦争をするために重要な場所だと考えています。それが人民解放軍の戦略の1つになっているのです。もし戦争が起きたら、通信は人工衛星を使って行うことになります。相手の状況を知るためには偵察衛星が必要ですし、軍の計画を進める場合は、気象条件を知るための気象衛星を利用します。現在の戦争というのは、宇宙空間の利用無しには考えられなくなっているのです。そういった宇宙空間を使って軍事作戦を進めることに対して、人民解放軍は非常に積極的です。