2024年4月17日(水)

ウェッジ新刊インタビュー

2017年4月3日

「ソフトキル兵器」となりうる宇宙技術

編集部:そうなると、隣国日本にとっては安全保障上の脅威ともなりえるのではないでしょうか。

寺 門:いま中国は、南シナ海や東シナ海で領有権を主張するなど強引な活動を展開しています。今後、こうした海域で紛争が起きる場合、中国は作戦を有利に進めるために、衛星破壊技術を使用する可能性があります。

 宇宙技術の軍事利用については『中国、「宇宙強国」への野望』の中で詳述していますが、中国はレーザー兵器で相手の衛星そのものを破壊せずに、内部機能だけを破壊する研究を行っています。なぜかといえば、ミサイルによる破壊は宇宙デブリ(宇宙ごみ)が発生するため、自国の衛星にもリスクがあるからです。

 レーザーや粒子ビームを使う高エネルギー兵器は「ソフトキル兵器」と呼ばれていて、デブリの発生リスクがありません。万が一尖閣諸島付近で紛争が起きた場合、中国のこうした衛星破壊兵器がアメリカや日本の衛星破壊のために使われてしまう可能性も否定できないのです。

 中国がアメリカと全面対決すると考えるのは、今のところ現実的ではありませんが、アメリカの研究者も、地域的な紛争において中国の衛星破壊兵器が使われることを懸念しており、具体的に使用が想定されている地域が、台湾、南シナ海、東シナ海なのです。

編集部:「宇宙と戦争」というとアニメのような宇宙空間での戦闘シーンを思い浮かべてしまうのですが、そうではなくて、地上での戦争を有利にするために、宇宙空間が利用されていくというイメージですね。

寺 門:そうです。これから起こりうる「宇宙戦争」というのは、レーザーや粒子ビームを使ったり、サイバー空間で相手のシステムに侵入する「見えない戦争」です。敵の宇宙船を粉々にするようなことではありません。つまり、我々が見ることができない空間で行われている戦争というわけです。

 いま私が気にしているのは、中国の月資源開発に関してです。国際的な取り組みでは、月の資源開発が止められているわけではありませんが、月を含めた宇宙の物体については、領有権を主張してはいけないという条約があって、これには中国も加盟しています。

 月に関していえば、月面に調査基地を作る、サンプルを採取して分析するといった、科学的な行為については許されていますが、軍事基地については、許されていません。けれども、中国の宇宙飛行士はいまのところ全員人民解放軍の兵隊なので、月面の科学基地が実態として軍事基地になっていた、なんていう可能性もあるわけですね。

 いま中国が地上で行っていることの延長で宇宙を考えると、月を自分のものにしようという動きが始まらないとは言い切れないと、私は思います。


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