2024年12月9日(月)

WEDGE REPORT

2017年4月7日

 サウジアラビアのサルマーン国王の日本訪問は、1000人超という随行団の人数に始まり、借り切った豪華ホテルの客室や高級車の数に至るまで、その規模や豪勢さがメディアを騒がせた。こうした途方も無い数字が踊る一部報道の陰にやや隠れた感はあるが、訪問の本来の目的である経済関係強化等の面でも着実に成果が挙がったことは言うまでもない。外国要人の訪日を機会に余り知られていない国を紹介しようという姿勢は評価できるが、まるで海外セレブの来日時のようにセンセーショナルに扱うのは真の国際理解を妨げるような気がしてならない。秋葉原での「爆買い」やタクシー業界の「特需」への期待を大きく取り上げるならば、昨今の油価低迷に伴う経済悪化の中でサウジの一般大衆が国王一行の「浪費」をどう見ているのかといった視点もあってよかったのではなかろうか。

サウジ国王が来日安倍首相主催の晩さん会
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

サウジから米国へのメッセージ

 2月26日から始まったアジア歴訪はマレーシア、インドネシア(バリ島での休暇を含む)、ブルネイ、日本、中国までの5カ国を終えたところで、現地でのインフルエンザ流行を理由にモルジブ訪問が直前になって延期(モルジブ政府声明)され、3月18日に一行は中国から真っ直ぐ帰国の途についた。今回のアジア歴訪の最大の目的を「脱石油に向けた協力関係の構築」や「脱石油のための投資誘致」とする報道が米欧や日本では目立ったが、アラビア語の報道では歴訪開始の前から「ルックイースト」とでも訳すべきキーワードの方も存在感を示した。つまり、イラン核合意等を理由にオバマ政権期から関係がギクシャクしてきた米国に対するカウンターバランスとして、サウジが戦略的にアジアを重視し始めたというものである。トランプ新大統領と直接会談する前に「東」に向かったサルマーンが米国に対して「あなた方は私たちの友人だけど、私たちには他の選択肢もありますよ」というメッセージを送ろうとしたという捉え方である。

東南アジアでの宗派紛争の“扇動”

 サルマーンのルックイーストは経済的利益を追求するだけのものでは決してない。訪問延期になったモルジブも含めたイスラム諸国4カ国、中でも併せて2億人超のムスリム人口を抱え政治経済・軍事的にも重要なマレーシアとインドネシアを「取り込む」ことも主な目的だったことが指摘されている。

 東南アジアにおけるサウジの宗教的影響力の拡大は既に1990年代前後から始まっていたと言われる。マレーシアでは近年、アーシューラー(シーア派の宗教行事)への参加者が毎年のように拘束され、サウジ・ワッハーブ派への迎合の度合いを増していた。またナジブ首相が2013年総選挙の際、サウジから7億ドルを受け取ったという醜聞もあり、マレーシア現政権とサウジの関係は最早「癒着」とまで言える程のレベルに達していた。


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