2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年3月29日

 ワシントン・ポスト紙コラムニストのクラウトハマーが、2月23日付同紙掲載のコラムで、伝統的政策に立脚した主要閣僚と破天荒な大統領からなるトランプの外交政策チームによる「二元外交政策」は、今のところ意外と上手く行っているところもある、と分析しています。要旨、次の通り。

(iStock)

 トランプの外交政策チームの中枢には大きな矛盾がある。一方には、経験、判断力のある、伝統に則った国務長官、国土安全保障長官、CIA長官、さらにマティス国防長官とマクマスター安全保障担当補佐官がいる。彼らは1945年以来の米国際主義の主流を体現している。「ヒラリー・クリントン内閣」にもふさわしい人たちである。

 他方、大統領はその正反対で、経験が無く、非伝統的で、縛られるところがない。一つの中国政策、アラブ=イスラエルの二国家解決、NATOの時代錯誤性、自由貿易がもたらす損害に至る、あらゆる事柄に対するトランプの声明が混乱をもたらしている。

 このトランプ外交チームは機能し得るのか。驚くべきことに、これまでのところ、答えは「おそらく然り」である。

 事例は少ないが、例えばドイツを例にとると、トランプは、欧州の安全保障への米のコミットメントの尊重を示し、同盟国を安心させるべく、ペンス副大統領、マティス国防長官、ケリー国土安全保障長官、ティラーソン国務長官らをドイツでの様々な国際会議に派遣した。彼らは、同盟へのタダ乗り、特に国防費負担の小ささについてのトランプの大きな不満を示唆した。数日のうちに、ドイツは兵員を20000人増やすことを表明した。閣僚たちが政策の継続を体現し大統領が米国第一を言うのは、古典的な「良い警官、悪い警官」の役割分担である。「事態を変えろ」とのメッセージである。

 このやり方は、敵に対しても機能するかもしれない。2月18日に中国は、今年末まで北朝鮮からの石炭の輸入を全て停止すると発表した。北の総輸出額の3分の1に当たる。中国の保護下にあった金正男の暗殺が理由かもしれないが、輸入停止は、北によるミサイル発射直後、トランプ新大統領の任期に入って間もなくのタイミングで発表された。

 一つの中国政策についてのトランプの揺らぎは中国を驚かせた。トランプは南シナ海における中国の膨張も強く非難し、日本の首相との親密さを見せつけた。中国の北朝鮮からの輸入停止には多くの意味があるが、その一つは米国への譲歩である。

 このことは、伝統的な部下と破壊的なボスからなる特異な米安全保障チームが、かつてのニクソンの「狂人理論」を再現し得ることを示している。ニクソン大統領が予測不能で、時に向こう見ずで、気違いじみた危険を秘めているとして、敵は慎重に振る舞った。キッシンジャーはニクソンの協力の下、敵に対する圧力としてこの認識を利用しようとした。

 確かに、「二元の外交政策」はリスクがあり、不安定で、脱線する可能性がある。しかし、最初の一か月の経験は、思慮分別と運があれば利益が時折もたらされ得ることを示している。すなわち、過激なレトリックと伝統的な政策の組み合わせは、友と敵の両方の振る舞いを改善させ得る。

出典:Charles Krauthammer,‘Trump and the ‘madman theory’’(Washington Post, February 23, 2017)
https://www.washingtonpost.com/opinions/trump-and-the-madman-theory/2017/02/23/d4f10f30-f9f4-11e6-be05-1a3817ac21a5_story.html


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