サウジ外交の東奔西走
サルマーンの滞日中の13日、その「愛息」で国防大臣でもあるムハンマド・ビン・サルマーン副皇太子が突如米国に派遣され、翌14日トランプ大統領と会談した。サウジのアルアラビーヤ衛星放送は、大統領就任後「トランプがホワイトハウスに迎える最初のアラブ・イスラム諸国の要人」であると同副皇太子に対する米国側の異例の厚遇ぶりを強調した。ホワイトハウスの新しい主に対してサウジは、前政権期に悪化した両国関係の改善を期待していたはずだが、よりによって反イスラム的なトランプの就任によりその実現に苦労していたところである。今回、新政権発足から2カ月弱という早い時期に、実力者である副皇太子がホワイトハウスに招かれたことでサウジがトランプの胸元に一歩近づくことができたのは確かであろう。
これ見よがしにアジア諸国との関係強化に邁進する同盟国の姿を見て、トランプ政権の方が慌ててサウジに手を差し伸べたという解釈も成り立つ。80歳を超える国王が老体に鞭打って遥々アジアの東端にまで足を伸ばしたからこそ、サウジの「メッセージ」がトランプに届いたのではなかろうか。米国との関係修復の端緒を作り出せたことは、少なくとも政治・外交面に限るならば今回のアジア歴訪が間接的にもたらした「最大の」成果のようにもみえる。土壇場でのモルジブ訪問キャンセルの理由については、インフルエンザの流行という公式発表の裏で、前述のサウジの「開発」プロジェクトに対する現地の抗議行動から、国王一行に対するテロの脅威に至るまで様々な憶測が流れている(マレーシアでも地元警察によると同様のテロ計画があり間一髪で阻止されたとのこと)。本当の理由が何にせよ折角の休暇がキャンセルになったのは残念だろうが、17日に帰国した「愛息」の顔を約3週間ぶりに見て直接、そして一刻も早く訪米の報告を聞けたことは、老国王にとって色々な意味で「転禍為福」だったかもしれない。
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