パレスチナ自治区のガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルとの交戦が激化する中、米国のジョー・バイデン大統領は10月18日にイスラエルを訪問し、イスラエルとの連帯を強調した。また、19日にテレビ演説で、イスラエルやウクライナに対する「前例のない支援策」を発表した。さらに米国は21日に国連安全保障理事会の各理事国に対し、ハマスを非難し、イランを牽制するとともに、イスラエルに自衛権があることを再確認する決議案を提示したと伝えられている。
バイデン政権によるイスラエル支援の方針には、連邦議会でも超党派的な支持がある。上述の支援策はウクライナ支援を含むために議論が分かれるが、イスラエルへの支援に限るならば、超党派的に承認されるだろう。
イスラエル寄りの方針が支持される背景に、米国とイスラエルが長年にわたり同盟関係にあることがあるのは当然だろう。だが、それだけで米国の政治家の強固なイスラエル寄りの姿勢を説明するのは困難である。
そもそもイスラエルは世界の中で最も裕福な国の一つだが、これまでにも米国はイスラエルに対して高水準の物質的援助と外交的支援を与えてきた。このような対イスラエル政策については米国内でも評価が分かれている。にもかかわらず、米国の有力政治家がイスラエルに対する全面支援を公言するのは、米国においてイスラエル・ロビーが極めて強い影響力を行使していることがある。
本記事では、米国においてイスラエル・ロビーが何故強いのか、解説することにしたい。
イスラエル・ロビー? ユダヤ系ロビー?
米国の対イスラエル政策はユダヤ系によるエスニック・ロビイングの成果だとしばしば指摘される。だが、この点には留保が必要である。
実は、各種世論調査によれば、ユダヤ系アメリカ人の約3分の1は対イスラエル政策を最重要課題とは考えていない。かつてのイラク戦争に際し、「ユダヤ系ロビー」と評された諸団体はイラク戦争を強固に支持したが、世論調査を見ればユダヤ系は米国民全体と比べても戦争に消極的だった。
また、イスラエルのために強い主張をする有力者の中には、キリスト教シオニストのような、ユダヤ教徒以外の人が含まれている。今日の米国においてユダヤ系人口が占める割合は2%程度だが、信仰上の理由でイスラエルを重視するキリスト教福音派は25%程度を占める。米国には、イスラエル人でもユダヤ系でもないシオニストが多く存在するのである。
このような事情を踏まえて、この問題に関する有名な研究書を著した政治学者のジョン・J・ミアシャイマーとスティーヴン・M・ウォルトは、ユダヤ系ロビーという表現ではなくイスラエル・ロビーという表現を用いるよう提唱している。もっとも、利益集団と一般構成員の間に利益・関心にずれがあることや、メンバーシップに伴う問題が存在することは、多くの利益集団について指摘できる問題ではある。だが、米国内でもヘイト・クライムが頻発していることを念頭に置くと、この点について認識することは重要である。