2024年5月22日(水)

キーワードから学ぶアメリカ

2023年10月25日

 選挙時の動員において、より重要な役割を果たすのが、イスラエル・ロビーと政治的方向性を共有するキリスト教福音派である。キリスト教原理主義者と呼ばれる人々は聖書の言葉を一言一句文字通り解釈する傾向がある。イスラエルとの関連でいえば、千年王国が到来する前にキリストが再臨することになるが、その前段階としてユダヤ人がパレスチナに帰還することが重要だというのが、彼らの聖書解釈である。このような立場に立つ人は、キリスト教シオニストと呼ばれる。

 もっとも、キリスト教シオニストは長期的にはユダヤ系をキリスト教徒に改宗させることを目指していることもあり、イスラエル・ロビーとキリスト教シオニストの利害関係が完全に一致しているわけではない。だが、そもそも外交問題に熱心な米国民、そしてイスラエル支援を声高に表明する人はそもそも稀であることもあり、彼らはキリスト教右派と強固な同盟関係を結んでいるのである。

政治家と世論に対する影響

 イスラエル・ロビーは政策過程においてもさまざまな影響を行使している。

 まずは先程も指摘したとおり、イスラエル・ロビーが政治家の発言や活動に対する評価を随時行っていることが、政治家には脅威となる。彼らが作成した採点表が緊密に張り巡らされたネットワークを通して広められることは、政治家にとって脅威である。

 イスラエル・ロビーはユダヤ系やキリスト教右派の政治家を積極的に活用している。ユダヤ系議員は民主党に多く、ある調査によれば2023年時点でユダヤ系は連邦議会上院議員の一割を占める(ただし9月29日にダイアン・ファインスタインが死亡した)。

 米国の連邦議会議員は自らの再選を重視するため、選挙区の産業に密接に関わる分野の委員会への配属を希望するのが一般的であり、ユダヤ系議員は外交委員会への所属を希望する傾向が強い。外交委員会に占めるユダヤ系の比率は高く、彼らが外交政策に及ぼす影響は大きくなる。

 また、ユダヤ系の中で教育水準の高い人は、大学院卒業後に、大学やシンクタンクで外交政策を研究することも多い。また、連邦議会や議員のスタッフとして政策過程に加わることも多い。ロビイストも、彼らが重視する争点についての情報を集めて、説得力あるやり方で説明する能力に長けている。

 彼らは、イスラエルに関する争点が浮上した場合も、自分たちの要求を一方的に伝えるのではなく、法案のセールスポイントなどさまざまな情報を提供し、議員の活動を手助けする。彼らのもたらす情報が、政策決定過程において強力な武器になることも多い。

 イスラエル・ロビーは、メディア、シンクタンク、学会や教育界に対しても大きな影響を及ぼし、世論形成にも寄与している。親イスラエル派は大学やシンクタンクに対して人材や研究費を提供し、親イスラエルの研究拠点を築いている。

「特集:中東動乱 イスラエル・ハマス衝突」の記事はこちら

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