2024年12月6日(金)

キーワードから学ぶアメリカ

2023年10月2日

 最近、米国の労働を取り巻く話題が日本でも頻繁に報道されている。例えば、全米脚本家組合(WGA)が5月から、俳優の労働組合である「映画俳優組合-アメリカ・テレビ・ラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRA)」が7月からストを起こしているため、ハリウッド映画やテレビ番組の作成が遅れていることを聞いた人もいるかもしれない(このうち全米脚本家連合はストを9月27日に終了すると発表した)。ハリウッド関係者のストとなると、政治家への献金にも直接的な影響が出てくるため、政治への影響が当然ながら発生する。

 それよりも大きな政治的インパクトを及ぼすのは、自動車産業の労働者である。米国では全米自動車労働組合(UAW)が、大手自動車メーカーのゼネラル・モーターズ、フォード、ステランティス(クライスラーを傘下に持つ)の3社との間の労使交渉で合意できず、9月15日から3社の組合員が同時にストライキを実施している。そして、民主党のジョー・バイデン大統領は、現職大統領として初めてピケ(スト破りがないよう見張り)に参加し、労働組合寄りの姿勢を鮮明にしたことが話題となっている。

バイデン大統領が現職大統領として初めて労働組合のピケに参加した(AP/アフロ)

 また、共和党のドナルド・トランプは、9月27日に行われた共和党候補者による第2回討論会を第1回に引き続いて欠席し、代わりにミシガン州で自動車製造に関わる労働者に向けて演説を行った。

 このように言うと、米国において労働者や労働組合は政治的に活発で、大きな存在感を示しているという印象を持つ人もいるのではないだろうか。実は、米国における労働と政治を取り巻く状況は複雑である。本稿では、米国における労働と政治をめぐる問題について、説明することにしたい。

労働組合の影響力と分断

 まず、米国の労働組合が利益集団として強力かというと、必ずしもそうではない。

 かつては労働組合の政治的影響力は大きいといわれていた。1935年に全国労働関係法(通称ワグナー法)で労働者の団結権・団体交渉権が認められ、38年の公正労働基準法で最低賃金や労働時間が整備された。40年代後半から50年代には世界最大で最も豊かな中産階級を形成するのに寄与し、60年代に連邦最低賃金、社会保障、失業保険、メディケア、労働安全衛生法、公民権法などを獲得・拡充する上で労働組合が大きな役割を果たしたとされる。

 だが、70年代以降、労働組合の影響力は著しく低下している。2023年には注目を集めるストが複数発生しているものの、民間セクターで1000人以上が参加したストライキは、一年を通してみても数えるほどしかないのが最近の傾向である。

 また、米国で有給の病気休暇や産前産後休暇の権利がいまだ認められていないことを考えても、労働組合の要求の多くが実現しているとも言えない状態である。現在はストが複数発生しているために非常に労働組合が目立っているが、そもそも成果を上げている利益集団ならば目立つ行動をとる必要はないはずである。


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