民主党の姿勢、関係は
では、労働者、労働組合と二大政党はどのような関係に立っているのだろうか。
労働組合は民主党の伝統的な支持基盤となっているため、民主党の政治家の中には、労働組合の意向をできる限り尊重する必要があると考える人は多い。「Lesson 9米民主党はなぜ、対立が頻発しているのか」で説明したとおり、米国の民主党は単純化して説明するならば穏健派と左派に分かれており、それぞれも一枚岩にまとまっているとは言えない状態にある。だが、穏健派内の労働組合重視派や経済的左派はとりわけ労働組合、労働者の支持を得ようと熱心である。
バイデンは元々労働組合との距離が近いこともあり、20年大統領選挙に際し「中間層のための外交」というフレーズを用いて労働者層の支持獲得を目指すなど、熱心に活動している。実際、20年大統領選挙でバイデンが勝利できたのは、16年大統領選挙でトランプが支持を獲得した白人労働者層の票を一定程度奪ったからであり、24年にはその上積みを狙うだろう。
とはいえ、民主党内にも微妙な温度差があることは先ほどからの説明からもわかるだろう。最近では民主党内でアイデンティティ政治が注目されるようになっているのを踏まえ、労働者からは、民主党が労働者を犠牲にしてマイノリティのアイデンティティを重視するエリートの政党になっているという議論も出ている。
トランプの選挙戦略
共和党のトランプ陣営にとっても、労働者の支持を勝ち取ることは重要である。16年大統領選挙でトランプが勝利できた大きな要因は、労働組合には組織化されておらず、その要求に耳を傾けてもらえなかった白人労働者層の声をくみ上げることに成功したことだった。
トランプの選挙戦の大きな特徴は、白人労働者層の味方を装いつつ、労働者間の対立をあおる戦略にあった。共和党が伝統的に重視してきた経営者層の支持を得つつも、白人労働者層の支持をも獲得するために、トランプ陣営は白人労働者層のアイデンティティを重視する戦略を作り上げた。
とりわけ、労働者対経営者という対立の構図が出ないようにするために、白人労働者対他の労働者、労働者対マイノリティという構図を作り上げたのである。具体的には、製造業の復権、インフラ整備、保護関税強化、労働者の職を奪っているとして反移民の立場を鮮明にするといったことである。
このトランプの手法は白人労働者層の支持を得る上でプラスになった。そして、選挙戦中にはトランプに批判的だった組合の幹部の中にも、当選したトランプにすり寄る動きも登場した。