大手百貨店そごう・西武の旗艦店である西武池袋本店(以下、西武池袋)で8月31日、ストライキが行われた。ストは、親会社のセブン&アイホールディングスが米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループへそごう・西武を売却する契約を結び、西武池袋の低層階などに家電量販大手ヨドバシが出店する計画がわかり、労組が雇用維持を求めてのことだった。売却契約は結ばれ、労使交渉も前進していないことから、さらなるストも検討されているという。
ストのニュースに対し、SNSなどでは労働者が声をあげることへ賛同の声が飛び交うなど、注目が集まる。ただ、西武池袋をよく利用する消費者としても、まちづくりを長年調査・研究する身としても、西武百貨店の路線転換は起こるべくして起きたことといえる。そごう・西武が〝変革〟しなければ、問題の根本的解決にはならない。
変わる地方都市と百貨店
そごう・西武が、同業の三越伊勢丹ホールディングスや高島屋と事業手法でやや異なる部分がある。それは、そごう・西武は地方都市の店舗網が非常に大きいため、その整理が遅れたことにある。特に西武は、北は旭川から南は高知まで店舗網が広がっていた。
しかし、地方の百貨店を取り巻く環境は昭和の終わりの頃から変わりつつあり、歴史ある百貨店も相次いで閉店を余儀なくされている。特に影響が大きいのは地方におけるモータリゼーションの進展だ。
地方の大型商業施設の立地が、百貨店のある中心市街地から自家用車でのアクセスが容易な郊外の基幹道路沿いに変化している。地方では郊外の一戸建てに住む人が多い中、駐車場確保がままならず、駐車料が有料である中心市街地より、無料駐車場が多く用意される郊外の大型商業施設の方が利用しやすい。
流通業界ではイオンなどの、何でもそろい、映画や食事なども楽しめる大型商業施設が郊外バイパス沿いに相次いで出店。ドラッグストア系の食品・生活雑貨中心の大型スーパーやファッション系が充実しているアウトレットモールの展開も進んでいる。一方で、Amazon(アマゾン)をはじめとするネット通販も利便性を高めている。
こうして地方の住民には中心市街地の百貨店に行かなくてもさまざまな物や娯楽が手に入るようになった。中心市街地の百貨店といえば、紳士服や婦人服といったハイブランドの商品を提供する場所とされているが、地方に住む人にとって、そうした品は東京、大阪、名古屋、福岡といった主要都市へ旅行などのついでに購入すれば良い。そもそも地方の店舗よりも都心の店舗の方が品揃えは豊富なため、そちらを選択する傾向にもあった。
実際に、西武で残っている地方店である西武秋田店と西武福井店も今後の生き残りは容易でなかろう。西武秋田店のある秋田駅前では、イトーヨーカドーが2010年10月に撤退。その1カ月後に同じくセブン&アイ・ホールディングス系の高級食品スーパーのザ・ガーデン自由が丘が核テナントとなり、リニューアルオープンし、13年からは、近隣の西武秋田店が運営を引き継いだ。しかし、採算が取れないとして、21年2月に撤退し、地元企業のナイスが出店する形となっている。食品という生活必需品を取り扱う店舗が継続できないということは、駅前経済の規模を物語っている。