2024年5月17日(金)

都市vs地方 

2023年9月14日

ヨドバシは西武にとって「敵」なのか

 このように、そごう・西武は大都市圏においても、地方においても、ビジネスモデルに変革が求められている。そうした意味で、今回、ストの火種の一つとなったヨドバシカメラの低層階への出店をどのようにとらえればいいのだろうか。

 すでに述べたように、百貨店は遠くからの来街者に依存することが難しくなっている。今後はより近隣の住民をターゲットにすることが必要であろう。

 例えば、23年3月に開業した東京駅直結の商業施設「東京ミッドタウン八重洲」には、商業エリアから企業が集積するオフィスフロア、公立小学校からこども園まで入っている。上層階には、ブルガリホテルもある。ホテルは住まいの一形態であることを考えると、職、住、遊が1カ所に集まったといえる。オープン直後で、実績は未知数だが、新たな形を見せている。

 また、松山三越は、百貨店の「顔」とも言える1階フロアに、四国最大とされるフードコートや「ゴディバ」が運営し、地元のミカンを利用したチョコドリンクが提供される、世界初の「地域密着型ショップ」等が並ぶ。さらに、上層階にはホテルやフィットネスクラブが入居している。

 松山はオフィス、商店街、観光施設などがコンパクトに立地しており、観光客が多いだけでなく、都心居住が多いことでも知られる。観光客に加えて近隣の住む人たちも楽しめる、充実した生活ができる場所という考え方で、かつての百貨店や商業施設のイメージとは違うテナント展開がなされている。

 このように、大都市圏でも地方でも百貨店では近隣住民シフトが徐々に進んでいる。大都市圏でも今後の人口減少が避けられないことや、コロナ禍で人が住まない繁華街の脆弱性を明らかになったことを考えると、今後のまちづくりでは職住遊近接型のまちづくりが志向されよう。大都市圏に立地する百貨店もそのようなトレンドに沿った変革が求められている。

 生活していく中で、必要となる機会が多いのはブランド品よりも家電だろう。ヨドバシカメラが駅にあれば、消耗した家電部品を購入できるし、故障した時にすぐに相談ができる。また、池袋には、すでにビックカメラとヤマダ電機の大型店舗があり、「家電の街」の価格競争やサービス競争も期待できる。この3社は電化製品だけでなく、食品や雑貨などが比較的充実していることでも知られており、近隣の住民にとっては家電関連以外でも使い勝手が良い。

 23区では唯一「消滅可能性都市」と揶揄された豊島区としても、近隣住民に便利な機能が充実することはウェルカムといえるかもしれない。豊島区役所が入居する「としまエコミューゼタウン」は、区役所に加えて店舗、ホール、マンションが一体化した、全国でも珍しい大型複合施設であり、豊島区は住民にやさしい街を標ぼうしている。近隣住民に使い勝手の良い百貨店に変わることは豊島区として全面的に否定すべきことではないだろう。

 23年8月に西武池袋で開催された「レトロ百貨店」では池袋の歴史を知るコーナーがあり、特に昭和の池袋における百貨店の存在感の大きさが感じられる素晴らしい催事であったが、ファッション系の高級ブランド店が立ち並び、特別な日に訪れてもらうという百貨店のイメージはもはや過去のものとなりつつある。西武池袋は街の変容などに合わせたビジネスモデルの転換に試行錯誤していく必要があろう。

 また、百貨店が立地する地域も昔の百貨店のイメージに固執するのは問題だ。将来の街づくりに向けて、家電量販店を含めた、百貨店のさまざまなチャレンジにもう少し寛容であっていいのではなかろうか。

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